—牧山社長は、渋谷とは特に縁が深いとお聞きしましたが。

私は1981年に入社してすぐに渋谷の本社や渋谷店に配属になり、渋谷PARCO・パート3の立ち上げを担当しました。その後、1997年から3年間渋谷店の店長を務めています。
パルコの事務所が渋谷にあることから街の変化を感じながら仕事をしています。渋谷には勤務した年数が長く、これまでの変遷を目の当たりにしていますので、やはり渋谷にとくに愛着を感じますね。

—渋谷という街にはどのような印象をお持ちですか?

駅を中心にすり鉢状になった渋谷は大きなメインストリートがあり、そこから横にそれると小さな路地のような裏道が伸びています。人はなぜか、こういったヒューマンスケールの空間、界隈性のある小さな店が軒を連ねるようなところに惹かれるものなんですね。渋谷ではそういった裏道が発達していて、そこでは常に新しいお店や業態が生まれている。ほんとうに個性的な、どこの模倣でもない街だと思います。

—その特別な街で、渋谷PARCOはどのようなものを目指してきたのでしょうか。

1973年、渋谷PARCOは「すれ違う人が美しいー渋谷ー公園通り」をキャッチフレーズに開店しました。街を歩く人たちが主人公であり、その人たちが輝くような街をつくりたい、そう考えて、渋谷を訪れる人たちの心が高揚するような舞台を提供することに務めてきました。パルコがイタリア語で「公園」を意味することから、渋谷PARCOの前の道が「公園通り」と呼ばれるようになったことはとてもうれしく思っています。

—劇場や美術館と一体になっているのも渋谷PARCOの特徴ですね。

渋谷PARCOの開店時には、「劇場の中にショッピングセンターがある」というもう一つのコンセプトがありました。ビルの中に「パルコ劇場」や「パルコミュージアム」があり、ショッピングだけでなく最新鋭の演劇やダンス、デザインやアートなどを楽しんでいただけるようになっているのです。このようなコンセプトのあるビルは、おそらく日本では初めてのものだったのではないかと思います。渋谷PARCOは駅からは少し距離があって、駅からは見えない場所にあります。それでもたくさんの人に来ていただき、「坂の上に文化がある」とまで言っていただけるようになったのは「パルコ劇場」や「パルコミュージアム」で優れた作品を次々と発表していただいた演出家や俳優、デザイナーやアーティストの方々のおかげだと思っています。

—渋谷PARCOは渋谷の中でも、特別な場所に位置しているように思います。

確かに渋谷PARCOは周辺の環境にも恵まれています。すぐ近くにNHKや代々木公園があり、そこに訪れる人が渋谷PARCOにも立ち寄っていただけるような位置関係です。また、先ほどお話しした路地のような空間には最先端のファッション・ブランドが集まるようになり、そのお店を目当てに新しい感性を持った人たちが訪れるようになりました。渋谷はそういった、新しいものを受け入れてどんどん変わっていく素地のある街なのです。

—開店から43年たって、ここで一度閉店という区切りを迎えるわけですが、渋谷PARCOはこれまでどのように成長してきたと思われますか。

街とは、舞台であり、人が変えていくものだと思います。渋谷は華やかなメインストリートでメインストリームが生まれ、そこから一歩入ったところに広がるヒューマンスケールの路地や裏道から発信される若いエネルギーとカルチャーとが融合する、他にはない特別な街です。メインストリームとサブカルチャーがぶつかり合い、溶け合うことで独特なものが次々と生まれる“舞台”となっています。渋谷PARCOも街と人々と一緒になってこの“舞台”を地道に耕し、しっかりした土台を造ってくることができたと自負しています。

—渋谷PARCOでは実際の店舗はもちろん、時代の先端を切り開く広告表現も魅力の一つでした。

渋谷PARCOの原点はアートディレクターの石岡瑛子さんやイラストレーターの山口はるみさん、コピーライターの小池一子さんといった女性達が作ってくれました。まだまだ西洋の女性に憧れる人たちが多かった1970年代に、女性のクリエイターである彼女たちが日本女性の美の本質を示してくれたのです。日本の女性のすばらしさを賛美し、日本のよさを世界に誇るよう刺激してくれたのが彼女たちでした。強がらなくてもしなやかに、世の中をリードしていくような存在です。私自身は男ですが、私も、新しく生まれ変わる渋谷PARCOもそのようなしなやかさを持っていたいと願っています。

—新しく生まれ変わる渋谷PARCOはどのようなものにしたいとお考えですか。

まずは前述したように、43年の間に作り上げてきたしっかりとした土台を活かした、ここでしかできない体験やプログラムを提供する舞台でありたいと思っています。今はデジタル・ネイティブ、幼いころからインターネットやスマホに囲まれて育った人たちの時代です。また渋谷というステージにもグローバルに人が集うようになりました。技術の進歩や社会の変化により、様々な価値観が世代や性や国を超えてボーダレスに共存している時代になってきたのです。渋谷という街はそのような多様な価値観を受け入れ、これからもさらに進化していこうとしています。
新しく生まれ変わる渋谷PARCOはこうして生まれる新たな価値に共感し、クリエイティブな発想を持った人たちと渋谷という舞台をもっと面白くしていくための準備をしています。さまざまな価値観を大きく刺激し、あらゆるものをまるごと変えてしまうような提案をしたいと考えています。

—渋谷PARCOと渋谷の街に来て下さった方々、新しい時代に再び誕生する渋谷PARCOに来ていただく方々にメッセージをお願いします。

渋谷PARCOは街と、街に訪れる人によって次はこうあるべき、という姿を示してもらい、ここまで進化することができました。このことに感謝して、次はみなさんの期待を超えたものをつくることが恩返しになると考えています。渋谷PARCOが街の進化のヘソになっていければ、こんなうれしいことはありません。そんなことを考えながら、新しい渋谷PARCOの誕生を私自身が一番楽しみにしています。
(インタビュー・文:青野尚子 / 写真:南阿沙美)