FEATURE:20年ぶりの対話(2)
UNDERCOVER
20年ぶりの対話(2)
文|中島敏子 写真|金 玖美
過去2回、relaxではUNDERCOVERの特集を行っている。1回目は2000年11月号。2回目は2002年12月号。 UNDERCOVERが初めてパリコレに挑戦するというタイミングで、relaxもパリに同行した。
この時のテーマは「SCAB」(かさぶた)。美と腐敗と執着を閉じ込めたような詩的世界が表現されていた。
ショーの最後にイスラム圏の女性が着用するブルカをまとったモデルたちが疾走した時、会場の客は思わずざわめいたという。
911や民族紛争を思い浮かべた人も、そこにある女性の強さと透明な美しさを感じざるを得なかっただろう。
「デザイナーたちがいろんなバックボーンを持っていて、出自はいろいろでも洋服というところに才能が集約されていると思った。
洋服を介して深いコミュニケーションができるんだな、と。
特にラフは建築出身でありながら、ストリート要素もあり、音楽の背景もあり、年も近くてファッション以外の要素が強いことに親近感を感じた」
この時、パリコレ進出の後押しをしてくれたのが川久保玲だったという。高橋と川久保は頻繁ではないが、連絡を取り合う間柄なのだ。
「東コレの最初のショーの後、商品が並んだ初日に買い物をしてくれたとスタッフに聞いて、すごく嬉しくて手紙を書いたんです。
そしたら手紙の返事が来て、そのまま会うことはなくて4年くらい手紙のやり取りが続いたかな。
ある時、FAXが来て、もうそろそろパリに行かれたらどうですか?ということが書いてあって。
でもやるならずっと続ける覚悟はしなきゃダメだということも」
実は初めてのショーの時に、川久保玲も見に来ていた。有名ジャーナリストやバイヤーにUNDERCOVERを紹介してくれたのも彼女だったようだ。
川久保は用意された席を断って、後ろで立ってショーを見ていたという。
自分がやりたいことを示してくれたもの
「自分が作り始めた頃の一番の刺激は、コム デ ギャルソンとマルタン マルジェラだった。
文化の学生の頃に大川ひとみさんに初めて連れていってもらったギャルソンのショーが『シックパンク』で、とにかくびっくり!
学校では絶対に教えてくれないクリエイティブなものだった。
マルジェラのロックミシンや糸がブラーンとしたデザインはまさに衝撃で、ものを作りながら壊していく、壊しながら作っていく感じで、
自分がやりたい方向が見えたと思いました。この服はいったいどうなってるんだろう?
仕組みが知りたい…というアブストラクトさに惹かれて立体裁断も始めたんです。頭では考えられても、それはデザイン画には落とせないから」
「自分も音楽ではパンクを通ってきたし、ヴィヴィアン(ウエストウッド)やセディショナリーズみたいなことは理解していたけど、
まったく異なるパンクであり、エレガントなパンクというものに出会って、
飛ばされた感じがした。川久保さんの頭の中のイメージが、絶対に今までになかったパターンとして形になりできあがっていくのはすごい。
大先輩という言葉じゃとても足りなくて形容するのも難しい。一番尊敬する人でいろんな言葉をもらいました。
自分にとってはパンクの先生でもあり、とても刺激を受けています」
初めてのパリコレからこれまでのこと
それから18年の間にUNDERCOVERにいろいろなトピックがあった。
コレクションとしては、グランジが鮮やかに薫る「BUT BEAUTIFUL…」(2004年)やマスターピースがきらびやかに復刻した「THE GREATEST」
(2016年)などがファンには懐かしいかもしれない。
NIKEとの「GYAKUSOU」やUNIQLOとの「UU」、そしてSupreme、VALENTINOからGirls Don’t Cryまで、
あまりにも幅の広いコラボレーションの歴史はUNDERCOVERというブランドの懐の深さと同時に恐ろしく深いクリエイティブの底を感じる。
どんな相手と組しても決して負けることなく、そのエッセンスが混じり合って新しい世界が生まれるのだ。
個人的に一番強くクリエイティブの核のようなものを感じたのが、アトリエの入り口に鎮座している「GRACE」(2009年)だった。
「GRACEと名づけられたクリーチャーと人間が共存する」というファンタジーストーリーをもとに写真集も作られ、
フィギュアにもなったキャラクターである。
「時々、ものすごくアーティスティックなものにどっぷりはまりたくなって、ストレス発散のために何かを作り続けることがある。
会社の仕事とはまったく違うことがしたくなるんです。
あの頃、Madsaki(アーティスト)といっしょに1ヶ月半くらい地下にこもって描き続けてたことがあって、GRACEもそこから生まれた。
リラックスのため、とか言って結局集中しすぎて疲れちゃったりするんですけどね(笑)」
確かに当時アトリエを訪れた時、2人が描き続けた空間はおとなの子供部屋のような混沌とした異常なエネルギーに満ちていた。
無目的で衝動的な創造へのエネルギー。破壊でもあり創造でもある行為の連続がそこで日夜行われていた。
GRACEはコレクションとして発表され、ビジネスとしても世の中にちゃんと拡散したが、
こんなに美しく独特な毒を持った抽象的なアイコンが他にあるだろうか。そしてこれを世間に受け入れさせる手腕にも感心した。