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FEATURE

FEATURE:20年ぶりの対話(3)

UNDERCOVER
20年ぶりの対話(3)

文|中島敏子 写真|金 玖美

初めてのコレクションを行った1994年に高橋盾(以下高橋)にインタビューしたことがあるのだが、 当時は世田谷でスタッフ3人とミシンを踏んでるような小さなアトリエだった。 現在のアトリエは最初のそれに比べて遥かに大きく深く拡大されたイメージの坩堝で、 華やかで繊細だがパンクで毒のある孤高の存在である今のUNDERCOVERそのものだと思う。

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「昔からものを作り続ける習慣というものは変わらないと思う。 子供の頃からずっと何か作ってないと気が済まなかった。ひとりで考え、ひとりで手を動かす。 もともと妄想から服ができてくるタイプだから、勝手にいつも物語が始まるんです。 スウェットをじっと見てると、スウェットを軸にしたスウェットから始まる物語になっていく」
「ものを作る現場は自分でも思うけど、頭おかしいんですよ。自分の頭の中から出るものを作るわけなので凄いパワーが必要で…。自分でも怖いですよね、別人格になるから。でもそれくらいじゃないとものは作れないと思う。それは最初からそうなんです」
想像力がほとばしり、そこに手先が細かく動き続けて、どこにもない何物かが生まれていく。
そのクリエイティブの瞬間がこのアトリエには生命のように息づいている。

ところで2020年、十分大人になった高橋盾はクリエイティブと反対のビジネスや組織のことをどう考えているのだろう。
「本当はもう少し自分が楽しみながらものづくりができるといいと思うんですけどね。緊張感を与えているのはわかってて、もっと楽しく作れば皆もハッピーでもっといいものができるのかなと思っている間に30年経っちゃった(笑)。ものを作っている時はちょっとしたことにも敏感になって周りにも緊張感を与えてる。一緒にやる人に対する距離がうまくとれないと今でも思う。
会社が大きくなったし、今は本当にやることがたくさん増えて、自分でやった方が早いのに、昔の自分だったらこうするのに、みたいなことでイライラしてもなるべく言わないようにはしてるつもりです」

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次の世代に伝えていくこと。

たとえば人生は往路と復路であって、若い時の往路は自分のためだけに生きる。いくら他人に迷惑をかけても若い時は好きなように生きればよい。しかし復路になった時はその逆で、往路でもらった分を周りの人に与えながら生きていく、という話をしたところ、彼は「でも俺はまだそこまで行ってないかな」と言った。
でも違うと思う。2018年のビッグイベント「UNDERCOVER/sacai」は彼らより下の若者たちのための画期的なイベントだった。sacaiの阿部千登勢も高橋も同じように、「6.1 THE MEN」といわれるコム デ ギャルソンとヨウジヤマモトの画期的なコラボレーションのショーを体験している。その衝撃を今の若い人たちにも伝えたい、という思いがいろんな障壁を超えてあのイベントを成功させたのである。おそらく高橋は無意識のうちに復路にいて、すでにあらゆるものを自分の製作物を通して、次の世代に伝えていると思う。

「いつも大事なことを判断するのは、自分の直感しかない。直感だけは信じられる。ブランドを始める時も一か八かだったけど直感だけを信じてスタートしました。間違えることも多いけど(笑)、でも当たった時に得るものはでかい。年取るほど、失敗に対してはタフになり、それが必要だったと思うようになるんです。その時失敗すべきだったんだ、それが必然だったと思う。それが年取って楽になったこと。でもそれは若い時はわからないよね、必死だし。若い人にそんな話をして「大丈夫っしょ」と言うと、後で「そう言ってもらえて本当によかったっす」と返事もらったりね(笑)」
「自分が先輩から教わったことはファッションというよりもそういう大事なことで、それは下の人たちにも伝えていきたいと思ってます。最近飲みすぎて語りすぎて、うわーっと反省してたら、皆から楽しかった!というメールが来て。コミュニケーションするもんだな、と」

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今の生活と今後のこと

ところで、コロナで生活や今後のことは変わりましたか? 「クリエイションは基本的には変わってないです。頭の中をめいっぱい働かせる作業はひとりでするものなので。ただ、日常生活が変わったので、この時代に合わせて常識や感覚が変わっていくことはあるかもしれない。そういえば葉山に家を借りるんです。週に何日か皆で行こうと思って。コロナで変わらないとはいっても、夜遊びはできないから行動や意識は確かに変わったのかな。夜遊びの刺激の代わりに、共感できる友達と自然に話したりすることが大事になってきてる気がします」
「将来的には、もう少しプライベートなものづくりになっていくといいなと思って。システムが中心になって回ってる世界じゃなくて、作るものがミニマムでも中身がギッシリ詰まってるようなものがいいですね。昔、Tシャツを刷ってた頃のような気持ちでまたものが作りたい。5年前に、この先の人生であと何がやりたいかなと思って、逆算が始まりました。年齢や体力を考えるとどうしても緩くなる部分がある。だからあえてペースを緩めたり、システムを緩めたりすることになると思うけど、作るものは緩めずにこれからもずっとギュッとしたものを作り続けたいと思ってます」


UNDERCOVER 20年ぶりの対話(1)はこちら
UNDERCOVER 20年ぶりの対話(2)はこちら

高橋 盾
たかはし・じゅん|1969年、群馬県桐生市にて(大好きな松田優作と同じ)9月21日に生まれる。 文化服装学院でファッションを学び、在学中の1990年に「UNDER COVER」(当時)を立ち上げる。 1994年、最初のコレクションをショー形式で発表。1997年、毎日新聞社 毎日ファッション大賞新人賞受賞、2001年と2013年の2度、毎日ファッション大賞を受賞。 2002年、パリのウィメンズファッションウィークに初参加。 その後、ナイキとの「GYAKUSOU」、ユニクロとの「UU」をスタートするなど他ブランドとのコラボレーションプロジェクト多数。 2019年、Valentinoメンズ&ウィメンズコレクションのためのグラフィックを提供して話題に。2021年春夏コレクションはコロナのため3Dのルックブックで発表した。

UNDERCOVER NOISE LAB
東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷パルコ2F ☎03-5422-3585 11:00〜21:00 無休
*営業時間および年末年始営業日については渋谷パルコWEBをご参照ください
11月20日、心斎橋パルコに「MADSTORE UNDERCOVER」がオープンした。

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