FEATURE:これからのフードカルチャー(1)
渋谷パルコに凝縮された、
これからのフードカルチャー(1)
photo Naoto Date text Rio Hirai
渋谷パルコのメインダイニング「chompoo」には、夜な夜な食通が集まってくる。ここは 2019 年まで下北沢「Salmon &Trout」のシェフを務め、店舗プロデュースや社員食堂のディレクションなどを行ってきた森枝幹さんの店。この日、彼の店を訪れたのは、「The SG Club」や「The Bellwood」をはじめ、世界に5つのバーを構える仲良しの後閑信吾さん。渋谷パルコをふたりで食べ歩きながら、渋谷の食文化の未来を考えてみた。
「chompoo」で後閑さん(右)に料理を取り分ける森枝さん(左)
後閑信吾(以下、後閑) 今日は初めて外側から店に入ったよ。館内を通らず外側からも入れるんだね。
森枝幹(以下、森枝) そうなんですよ、エントランスは外からのエスカレーターに面してるんです。
僕の自宅や「The SG Club」で食事をしたりはしていたけれど、ここでは久しぶりですね。何にします?
後閑 森枝くんのおすすめを! 僕は「The SG Club」を始めてから、「どうして渋谷なんですか?」 って言われることがあって、それは「渋谷なんかに」
というニュアンスを孕んでいるんだけど、森枝くんはそういうのない? あれってどうしてなんだろう。
森枝 僕もよく言われますよ。そもそも「どうして 商業施設に」って(笑)。
でも、反対されればされるほど盛り上がってしまって...。
ショッピングモー ルの中という立地でありながらコースを提供するL A のレストラン「 K A T O 」のことなども知り 、
僕も面白い店が作れるんじゃないかと思ったんです。後閑さんはどうして渋谷だったんですか?
後閑 僕は、日本で店をやるなら渋谷の一択だった。 他の国でもそうなんだけど、あまりバーがないとこ に出す方が面白い。
東京だと六本木や銀座にバー を出すのは普通だけれど、渋谷はたしかにそこまでバーの数は多くないでしょ。
でも海外で暮らしていて、外国人にとって東京の中でも圧倒的に渋谷の知 名度が高いということは知っていたし、ここ以外は ないなと思ってた。
森枝 奥渋谷エリアは飲食の個人店も多くて、大人が行くイメージがあるけれど、渋谷の駅近辺や中心部は、なかなか遊びに行かないのかもしれませんね。
後閑 日本で暮らしていると、大人になるにつれて 渋谷を卒業する時があるらしいね。
僕は海外にいたから「卒業する」感覚がよくわからない。アクセスもよくて、外国人にも親しまれていて便利だけどな。
「chompoo」のシェフ、GAPさん(右)はチェンマイの出身だ。
森枝 そう、やっぱり便利なんですよね。僕も、“集まりやすい”という立地は意識しました。
新型コロナウイルスの流行で状況は一変してしまったけれど、 大テーブルでワイワイと料理を囲むイメージだったんですよ。
海外からゲストシェフを呼んで、イベントができるようなキッチンの作りにもなっているんです。
後閑 予定がずいぶん狂っちゃったね。
森枝 そうなんです(苦笑)。後閑さんが始めた、世界各国の都市をテーマにしたカクテルペアリングの コース「SG Airways」もとても良いですよね。
後閑 大好評だったので、期間を延ばしたよ。これまでバーのカルチャーに触れていなかったという若い人も来てくれるようになったのが嬉しかったね。
もともとペアリングは店でやりたかったし、とても良い機会になっていると思う。
森枝 ぜひ、次はタイ料理を!
後閑 いいね、コードシェア便で(笑)。
chompoo(4F)/森枝さんが世界中のレストランとイベントをする中、東南アジア・タイ料理に魅了されてオープン。「鯖のカオヤム」(¥1,200)や「和牛と松茸のガパオ」(¥4,000)など、“日本初上陸”ではない、 “スパイシー”なだけではない、フレッシュハーブや日本の食材を使った体が喜ぶ“しみじみおいしい”タイ料理を提供する。
森枝 料理も出来上がりましたよ。「鯖のカオヤム」 と「和牛と松茸のガパオ」です。
後閑 ありがとう! ビジュアルが華やかだなぁ。ご飯が青いのはどうして?
森枝 これはバタフライピーというお茶で色付けています。子供にごはんを楽しんでもらうためにそうしたというエピソードをタイで聞いて、良いなと。
後閑 どうしてタイ料理のレストランにしたの?
森枝 日本でタイ料理っていうと、「ガパオかトムヤムクン」、「なんとなくスパイシーなもの」っていうイメージをアップデートしたいなと。
ON THE CORNER Shibuya(B1F)/「パルプフィクションの世界みたいだ」と後閑さんも話す通り、アメリカンダイナーのようなムードは移転前と変わらず。三浦野菜を使ったサンドイッチやボリューム満点のバーガーに加え、写真のストロベリーシェイク(¥1,000)をはじめ人気のオレオシェイクなど18種類以上のカスタムができるシェイクが名物。
後閑 世界中の食べ物が食べられる渋谷だけれど、これからもっと進化していけるよね。 森枝 そうなんです。渋谷パルコは「食の多様性」がコンセプトで、バリエーション豊かなんですよ。
後閑 森枝くんをメインダイニングに招致したくらいだから、そういう意識があるということだね。
森枝 そうかもしれないです(笑)。僕が縁があるお店も結構あって、「ON THE CORNER Shibuya」 も元々宮下公園の近くの三叉路にあったときからの 付き合いで、店長もその頃から変わらないです。移転した今も若者が集まっているダイナーですね。
後閑 日本にもファミレスじゃなくて、コーヒーもお酒も飲めるアメリカンダイナーがあるのは嬉しいよね。
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