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SHIBUYA PARCO ART WEEK 2025 PHOTO REPORT|芸術に染まる心と体、”揺らぎ”のなかで変容する意識

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2025年11月5日から9日にわたり開催された「SHIBUYA PARCO ART WEEK 2025」。本イベントは、渋谷PARCOを舞台に、パフォーミングアーツ、大規模インスタレーション、ペインティング、映像、サウンドをはじめとする多様な表現が呼応する空間を創出した。日常の地続きにありながら、些細な関心から価値観の逆転を促すアートの魅力を伝えるとともに、訪れる人々の思考に変化を与え、既存の価値観に“揺らぎ”を生じさせる5日間限定の特別な機会となった。同企画は、「アートウィーク東京(AWT)」や「EASTEAST_2025 TOKYO」といった国内外で注目の現代アートフェアとのコラボレーションを実現し、渋谷から新しいカルチャーシーンを世界に向けて発信した。「都市から文化を拡張させる」というPARCOのフィロソフィーと深く共振する本アートウィーク。訪れる人の感性や興味を刺激し、気づけばその全てを味わい尽くしてしまうような、魅力的なプログラムの数々を紹介していく。

Photo
Sachiko Saito
Photo
Koki Morishima
Text
Chikei Hara
Edit
RIDE inc.

Index

PERFORMING ARTS

「穴-2」|鈴木ヒラク×FUJI|||||||||||TA

ドローイングを線の発掘行為と捉え、その概念を拡張し続けるアーティスト、鈴木ヒラク。そして自作のパイプオルガンや自身の声を媒介に、独自の音響世界を表現するサウンドアーティスト、FUJI|||||||||||TA。この両者が交差するパフォーマンスセッション「穴-2」が2023年に群馬県立近代美術館で初披露された以来初、一夜限りの特別な空間として復活を遂げた。小さな記号の集積を通じて、自然と人工の間に仮象的な世界を作り出す鈴木ヒラクのダイナミックなライブドローイングと、FUJI|||||||||||TAの唯一無二の音が予測不能な即興性のもとに組み合わされる。両者の原初的な手つきから生まれる線と音は、太古の記憶や未だ見ぬ惑星の物語を紡ぎ出し、異星的な情景を鮮明に浮かび上がらせる。線、記号、音響といった複合的な要素からなる世界が、一体となるような感覚を鑑賞者に突きつける、稀有な体験であった。





鈴木ヒラク FUJI|||||||||||TA

EASTEAST_2025 TOKYO

ROAD TO NOTO 仮( )-karikakko-×SIDE CORE

アジアのカルチャーシーンの醸造にローカリティという観点から着目した「EASTEAST_TOKYO 2025」に連動し、渋谷PARCOの屋外でインスタレーションを発表したSIDE COREは、異なる場所や人間を媒介するストリートカルチャーを起点に作品を制作しているアートユニット。金沢21世紀美術館で開催中の個展「Living road, Living space /生きている道、生きるための場所」と接続するこの試みは、2024年に発生した能登半島地震での隆起や震災瓦礫の堆積物をモチーフとする。ここに示された88,100,000(木材ごみ推定値)と4.710(隆起した陸地の総面積)という数字は、震災の凄まじい力の影響力を渋谷という土地に持ち込み、都市生活と被災地・能登の多様な課題を結びつける。

P.O.N.D. 2025

渋谷PARCOの名物であった「シブカル祭」のフィロソフィーを次世代へと継承するべく、2020年にスタートした「P.O.N.D.」は今年で第6回目を迎える。PARCO館内の複数箇所を用いたアートエキシビション、イベント初日に気鋭のアーティストを招いたライブパフォーマンスによって、東京の新たなシーンを横断的に捉えている。「Swing Beyond / 揺らぎごと、超えていく。」と題された2025年度は、多数の領域や人々との間で起こる揺らぎからの発展を目指し、多様なクリエイションを追求するメンバーが集結する。各会場を巡りながら、新世代のアーティストの表現を身体で体感することができる他にないカルチャーイベントである。

1F ENTRANCE|宇留野 圭

乳白色のアクリルで構成された無数の部屋がパイプオルガンと接続され、内部に組み込まれたファンによる空気の循環を通じて、有機的な音響を奏でる宇留野圭のインスタレーション「22の部屋」。この装置は、渋谷という巨大な都市空間と、渋谷PARCOの建物全体と共振するように息をしている。音響、ボックスが積み上がる構造体、そして乳白のアクリルが放つ視覚情報という要素が精妙に影響し合いながら連動するこのシステムは、あたかも一つの身体のようでありながら、現代社会の分断された多層的なありようを表している。圧巻のスペクタクルを創出するこの巨大なインスタレーションは、訪れる鑑賞者を立ち止まらせ、内なる小さな意識の変化を促すことで、結果としてこの建物と都市の公共のあり方を変容させる。

GALLERY X BY PARCO|黒瀧 藍玖

「P.O.N.D. 2024」のアワードグランプリを受賞した黒瀧藍玖は、テキスタイル技術を応用した立体彫刻を制作する、ユニークな表現を行うアーティストである。織りの構造を基軸とし、経糸と緯糸をレイヤー状に集積させて生まれる作品群は、鑑賞者の視座や身体の動きに伴って姿を変える。そこには人間の存在性、あるいは無と有といった根源的な問いが現れ、壮大な尺度でものを捉える視点を与える。渋谷PARCO B1Fの「GALLERY X」に出現したインスタレーション「囚 “HITO”」は、人体像の周囲に会場全体を横断する長い緯糸が貫通するスペクタクルな鑑賞を創出する。暗く照らされた空間に浮かび上がる人物像は、システムに包摂された現代社会における存在論的な問いを多義的に表象するようである。

4F ATRIUM|今枝 祐人

都市の日常に溶け込む電光掲示板に詩を投影し、都市空間に「言葉のありか」を持ち込む今枝祐人のインスタレーション。短歌という言語表現を起点に組み上がるこの作品は、都市のシステムを多義的に転用し、内なる言葉(Inword)を外部(Outward)に向けて開放する。生成AIが創出した映像や、街から収集された言語情報は、サイネージが氾濫する現代の景観をそのまま映し出し、流れては消える情報の儚さを表すようだ。P.O.N.D.唯一の商業エリア内で展示された言葉による循環は、室内と外との境界を曖昧にし、社会の大きな情報の流れと、個人の思考の絡まりを再解釈する試みとして機能していた。

PARCO MUSEUM TOKYO

高橋義明(東葛西1-11-6 A倉庫)による空間デザインで築かれたメインエキシビションは、「Swing Beyond / 揺らぎごと、超えていく。」というテーマを体現した、アーティストと場所との協調の中で生まれた展示であるという。それぞれのアーティストとの対話を通じて築かれた実験的かつ仮設的な空間は、バランスの偏りがない現代的なコラボレーションのあり方を明確に提示する。日常のささいな違和感や魅力を具象へと起こす、みずかみしゅうとや、同一の会話内容に起こるディテールの差異を映像と絵画で表す菅野歩美を始め、多様なメディアや要素を用いた作品群を展開。訪れる鑑賞者との相互作用を通じて形が作られるグループエキシビションとなった。

井澤茉莉絵

みずかみしゅうと

ドゥアン・ジア・ヒエウ

何梓羽(カ・シウ)

『イデアリストの響き』
即興演奏 × 易経 × 装置連動 パフォーマンス
何梓羽(カ・シウ)周 婧雅(シュウ・セイガ)

髙橋穣

masao

コカ・ニコラゼ

Tonii

Tonii氏の作品「クリアボディー」ワークショップを開催。参加者は自画像を書いた時に出る消しカスや食べた後のお菓子のパッケージなどを用いて、レジンのハンガーを制作した。
“いつか忘れてしまうようなことを自分の代わりにおぼえていてくれる象徴”として表現。

黒沢鑑人

ジャン・ティン

ヤン・ホンジョ

菅野歩美

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