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1981年9月、スペース・パート3で開かれた「ヴィスコンティ展」

FEATURE

FEATURE:By 宇川直宏(2)

渋谷パルコとカルチャー史
By 宇川直宏(2)

photo Naoto Date(portlait) text Keisuke Kagiwada

渋谷パルコ9階のクリエイティブスタジオで「SUPER DOMMUNE」を主宰する宇川直宏さん。そんな宇川さんに「渋谷パルコ」文化の現在・過去・未来を語ってもらった。

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DOMMUNE 開局とスマホの登場。

2010年。ソーシャルメディアの夜明けとされるこの年に開局したのが、DOMMUNEです。SNSの台頭によって何が着目されたかと言うと、より深いコミュニティ意識。そういう時代を受け止めて、SNSの時代にコミュニタリアニズムを復権していくべく生み出したのがDOMMUNEでした。だから、COMMUNEの次、CからDへということでDOMMUNEと名づけたわけです。と同時に、DOMMUNEは紙メディアの墓場としてソーシャルストリームメディアを作りたいという思いもありました。当時、僕が寄稿していた雑誌、『スタジオ・ボイス』『エスクァイア』『広告批評』が、相次いで休刊したんですよ。すべてに共通するのは、サブカルではなくサブカルチャーを打ち出していたこと。DOMMUNEはサブカルチャー、言葉を換えればセゾンカルチャーから受け継いだ周縁文化の灯を絶やさないための個人運動として始まったとも言えます。だから、僕はこれを現代美術ではなく現在美術活動であると言っているんです。近代でも現代でも追いつけない速度で、撮影、配信、収録っていう行為を、美術表現として行っているので。当時はニコ生で“自宅警備員”による配信が盛り上がっていましたが、そんな中で僕らはUstreamを使いリア充配信をしていた。大変肩身は狭かったですけど(笑)、爆発的に注目されました。あの当時にセゾンカルチャーの息吹を絶やさないで活動をしていたのは、世界的に見ても僕らだけだったと、これは確信を持って言えます。そうやって今日まで10年間1万時間以上の配信を行ってきたわけです。

スマホの台頭と日常の逆流現象

しかし、そんな肩身の狭いリア充配信に逆転劇が起こったのが、スマートフォンの台頭です。iPhone 1が出たのは2007年ですが、スマートフォンが大衆に浸透したのは2011年ごろだと思うんですよ。そして、インスタグラムが日本でのサービスを開始したのが2014年。ここが大きな分岐点。
ここでも寺山修司を参照するなら、そもそもDOMMUNEは、「書を捨てよ、町へ出よう」ならぬ「パソコンを捨てよ、街に出よう」がコンセプトでした。だから、基本的には平日しか配信してなかったんです。リア充配信だったから、週末はストリートに出てクラブに行こう、都市に繰り出し文化を浴びよう、ってことで。ここが決定的にオタクのライフサイクルとは違うところでしたね。
そんな中、スマートフォンの登場によって、誰でもパソコンを持って街に出られるようになった。そうすると、リア充がオンライン上に流入し、徐々に逆転現象が起こってきました。インフルエンサーって言葉が広まってきたのもその時代です。つまり、フィジカルな謳歌や、時として盛りに盛ってより充実させた日常(笑)が、スマホを通してインターネットに逆流するようになり、オタクと引きこもりが警備していたサイバースペースに、リア充たちの日常が充満していった。

コロナ以降のコミュニケーションを求めて。

つまりこれは“コンテンツ、データベース”消費の時代から、“時、こと、エモ”消費の時代になったということです。“時、こと、エモ”は情報ではなく、“コミュニケーション”消費のことです。これはバーチャルではなくフィジカルな時間と空間の共有であり、それを後ろ盾したのがスマートフォンとSNSのタッグなんです。つまり、スマホが浸透することによって、リア充をオルタナティヴの側に復権できる道筋が整った。
この世の趨勢や文化の変遷を辿れば、渋谷パルコが2020年にリニューアルする意義も、われわれが9階に迎え入れられた理由も明らかだと思います。つまり、2020年はリア充復権、セゾンカルチャー〜パルコ的な世界観のUPDATE、サブカルをサブカルチャーに塗り替える年になる……はずだったのですが、ここに来てのコロナ禍です。つまり、リア充が強制的に引きこもらなければいけない時代が訪れた。これは想定外でしたね。そうして世界のすべての文化的な営みがいったんオンラインに避難したのが2020年です。
じゃあ、ウィズ/アフター・コロナ時代に、フィジカルな都市をどう思い描けばいいのか、そして9階に籠城するわれわれDOMMUNEは、「パルコ」の育ててきた文化をどのようにUPDATEさせればいいのか。ここで強く語っておくべきなのは、コロナ禍においてDOMMUNEが、先述の『エル・トポ』の監督アレハンドロ・ホドロフスキーの住むパリの自宅と生で交信し、僕らの禅問答をロングセットで配信する番組をライヴ配信したことです。彼は今回の新型コロナウイルスの蔓延は、生物というフレームで考えるとよかった出来事だと語っていました。街から排気ガスが消え、人間中心だった都市生活が閉ざされ、空気が美しくなって、騒音が消えた。だから、山に引きこもっていた動物たちが街に下り、草花はより青々と自らの生を謳歌している。惑星の健康を考えたら、重要なパンデミックだったんじゃないか、ということを巨匠が語ったわけです。
このことを踏まえると、先ほどから指摘している、モノから情報、“コンテンツ/データベース”を経て“時、こと、エモ”つまりコミュニケーションに至る価値の流れは必然だとしても、あくまで人間至上主義的な価値観の上にしか成り立っていなかったのではないかと考えることができるわけです。つまり、より洗練された文化を合理的に享受することに力を注ぎすぎていたのではないか、と。逆に言えば、COVID-19のお陰で生命を育む本質的な何かが見えてきたとも言えます。

“会う”こととZoom的なコミュニケーション。

例えば、コロナ禍においては、すべてがZoom的なコミュニケーションに成り果てました。それによって浮き彫りになったのは、“会う”ということの本質的な意味だと思います。Zoomはミーティング・プラットフォームと呼ばれていますが、この環境でコミュニケーションをしても会っているとは言えない。時間の共有だけではなく空間の共有が“会う”ことにとってかけがえのない体感だったと、僕らはソーシャルディスタンシングを命じられ初めて気づき始めているわけですよね。
“会う”ってどういうことなのかと言えば、Zoomではノイズとしてキャンセルされているすべての要素を含んだ経験ですよ。匂いだったり、気配だったり、空気だったり、雑音だったり。それに気づき始めた。これがポストパンデミックにおける新しいフィジカリティの創造につながってくるアイデアの源泉になると思うんです。つまり、オンラインに一度避難することで、人々がリアルな現場に何を求めるのかが、すごく整理されて見えてきた。だから、新生・渋谷パルコはそれを形にしていかないといけない。渋谷の都市開発における浅はかなジェントリフィケーションに埋没しない、新しく生々しいコミュニケーションの可能性を打ち出していかないといけない。今までセゾンカルチャーを享受してきた我々が中心となって、それを受け継ぎつつ考えないといけないと思っています。

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PARCO MUSEUM TOKYO(4F)/ジャンルレスかつボーダーレスな作品を紹介する、パルコ直営のミュージアム。2021年1月15日〜2月1日は写真家・薮田修身の個展『THERE WILL BE NO MIRACLES HERE』を開催。☎03-6455-2697※入場は閉場の30分前まで 11:00〜21:00 不定休

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GALLERY X(B1)/のオルタナティヴ・カルチャーを発信するギャラリー。 2020年10月には同年に解散したバンド、シャムキャッツの集大成的な展覧会『Siamese Cats Farewell Exhibition』を開催。☎03-6712-7505 11:00〜21:00 不定休

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Meets by NADiff(4F)/アート書店「アール・ヴィヴァン」を前身とする「NADiff」運営のセレクトショップ。 2020年10月にはペインター江口綾音の「Eiko」が開催された。☎03-6416-1756 11:00〜21:00 不定休

磁場に引き寄せられたカルチャー猛者たち。

素晴らしいことに、新しい渋谷パルコには、まるでセゾンカルチャーから地続きの文化的磁力に引き寄せられたかのように、 その流れを受け継ぐカルチャー施設が揃っています。これはすごい。例えば、コンテンポラリーアートを脱大衆文化化した「西武美術館」などの流れは、 「PARCO MUSEUM TOKYO」を中心に、現行のストリートアートを映していく「GALLERY X」、 サブカルチャーとしての美術潮流をフロアに落とし込む「Meets by NADiff」などへ細分化されて、それぞれの役割を際立たせながら渋谷パルコ内に点在している。
特にストリートアートに関しては、KAWSの日本初個展を行ったのはパルコギャラリーですから、セゾンカルチャーとは親和性が高いですよね。 しかも、この話を僕が『relax』で語っているというのが超重要で。 というのも、僕らはKAWSもラメルジーもフューチュラもバリー・マッギーも、90年代後半の『relax』で深く学んだのです。 その意味で、オタクによるサブカル台頭の裏側で、サブカルチャーを守っていたのは『relax』だった。あとは『スタジオ・ボイス』ですね。 そうやってあの時代に日本に紹介されたストリートアートの文脈の先端が、新しい渋谷パルコで体感できるわけです。

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OIL by 美術手帖(2F)/戦後間もなくから最新アートの動向を紹介してきた雑誌『美術手帖』。「OIL by 美術手帖」は、同誌が運営するECサイトの実店舗であり、ギャラリー、カフェ、ショップの3つの機能を持つ。ギャラリーでは老舗アート誌ならではの審美眼で選ばれた、カッティングエッジなアーティストの展覧会が。2020年10月には山崎由紀子による「崩壊する絵画」を開催。☎03-6868-3064 11:00~21:00 不定休

あと、アート系で言えば、「OIL by 美術手帖」にも触れる必要がありますよね。 雑誌としての『美術手帖』は、戦後間もなくからまさに伝統的な文脈も踏まえたコンテンポラリーアートの価値と可能性を日本において伝えてきたメディアです。 それが80年代に入り、「BT」という名称に変わった。これもセゾンカルチャーの影響だと僕は考えたいんですけど、椹木(さわらぎ)野衣さんが編集に深く関わるようになって、 DEEPにカルチャー雑誌化を果たした。そうやって、セゾンカルチャー的文脈とはまた違う自分たちなりの方法論で、 コンテンポラリーアートを嗜む能力を身につけさせてくれた『美術手帖』の運営するギャラリーが、渋谷パルコにあるというのは必然でしょう。 雑誌としての『美術手帖』に関してさらに言えば、最新の現代美術の動向と同時に、その文化的な背景も語ってくれたことがすごく大事。 それはDOMMUNEが日夜配信を通じて取り組んでいることだとも言えます。

渋谷パルコとサブカルチャー史(3)へ
渋谷パルコとサブカルチャー史(1)はこちら

宇川直宏
うかわ・なおひろ| 1968 年、香川県生まれ。 DOMMUNE 主宰。映像作家、グラフィックデザイナー、VJ、文筆家、大学教授、そして “現在美術家”など、幅広く極めて多岐にわたる活動を行う全方位的アーティスト。

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