SNSやYouTubeで発信を続け、リアルな言葉で時代を生きる姿を見せてきたkemioが、30歳を目前に新たな表現に挑んだ。それは、自身初となる写真集『kemio by kenta』の出版と、photo exhibition「裏アカ」の開催。“言葉で説明する”ことを続けてきたkemioが、今回は“写真”というフィルターを通して自身を見つめ直すーー。撮影したのは、長年ともに作品を生み出してきた写真家・久野美怜。二人の信頼関係のもとに生まれた一冊は、20代を駆け抜けてきた彼のすべてと、絆から生まれたクリエイションの軌跡が詰まっている。この一冊に込められた想いや、エピソード。「裏アカ」の展示会場であるPARCO MUSEUM TOKYOで、二人に話を伺った。
- Photo
- Mirei Kuno
- Text
- Fumika Ogura
- Edit
- RIDE Inc.
——この度は写真集『kemio by kenta』の出版と、photo exhibition「裏アカ」の開催、おめでとうございます! これまで『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』(2019)や、『ウチらメンタル衛生きちんと守ってかないと普通に土還りそう』(2022)など、エッセイを通じてご自身の考えを言葉で発表してきたkemioさん。今回は“写真”を軸にした理由を教えてください。
kemio 「やっぱり、自分の写真を見るのってたのしくないですか?(笑)。それも理由のひとつなんですが、これまで私はずっと“言葉で説明すること”をしてきたんです。執筆した本はもちろん、自分のアイデンティティや人生についても、みんなに理解してもらえるように、必ず言葉で説明しなきゃと思っていました。でも写真って、同じ一枚でも見る人によって感じ方がまったく違うじゃないですか。もちろん、表現方法として説明している部分もあるとは思うんですが、美怜ちゃんと一緒にクリエイションしていくうちに、そういった“説明をしない表現”のおもしろさや、新しい価値観が自分のなかに増えていったんです。だから、今回は20代から30歳になるまでのkemioを写真で表現したときに、それを見てくださった方々がkemioの存在をどう受け取るのか、そこの部分にすごく興味が沸いたんです」
久野美怜(以下、美怜) 「最初、本を制作する前の段階でもその話をしたよね。これまでkemioくんは2冊エッセイを出していて、それがたくさんの人に読まれている。やっぱり文字を通して伝える能力が高いことは誰もがわかっているうえで、今回は言葉を取り除いてみる。そうなったときに、kemioくんがみんなになにを伝えられるのか、なにを残せるのか。そこが新しいチャレンジでもあるし、どんな化学反応を起こせるのかが楽しいところだよねって」
——お二人は仕事を通して出会ったと伺いました。それぞれの第一印象について覚えていますか?
美怜 「出会ったのは今から5年くらい前なのですが、『腰低〜!』って思いました(笑)。こんなに人気者なのに、律儀な人って居るんだなと思いました。kemioくん、私より一個上なのに最初に出会ったときから、このくらいの距離感で接してくれて、同じ目線で物事を語ってくれる。私には今までいなかったようなタイプの人ですね」
kemio 「え〜!うれしいです。私の美怜ちゃんの第一印象は、“おもしれえ女”。スタジオに入ってきた瞬間から興味しか湧きませんでした。見た目はギャルだし、手には古いVHSを抱えていて。当時、まだY2Kカルチャーがない頃だったので新鮮だったんですよ。『この人のカメラ、うちのおばあちゃんが小学校の運動会でハンディカム構えてたやつじゃん』って(笑)」
——写真集を見てみても、お二人の素敵な関係性がとても伝わってきました。今お話いただいた第一印象から、お互いの距離がグッと近づいたタイミングなどはあったのでしょうか?
kemio 「私はわりと最初から美怜ちゃんに対して、“なんでも言える人”だなと思っていたかもしれません。人との出会いを“部屋”に例えるとすると、私って新しい部屋に入るときは、つま先からそっと入るタイプなんです。けど、美怜ちゃんはどちらかというとそういう慎重な空気とは真逆で、最初から絶対的な安心感があった。この人にはなんでも言えるし、やりたいことを、“やりたい”って素直に伝えられるなと思ったんです。だから、最初からあまり関係性は変わらないかも」
美怜 「確かにこの関係性や距離感は、出会ったころからずっと変わってないかもね。けど、今回の撮影を通して絆がもっと強くなったなと思いました」
kemio 「美怜ちゃんがアメリカに来てくれたのが本当に嬉しかった!この撮影を経て、もっと深くて強い関係性になったと思います」
——やっぱり美怜さんだからこそ撮れるkemioさんの表情がたくさんあるのだなと感じました。改めて、この『kemio by kenta』で、kemioさんが思う “美怜さんにしか撮れない自分”についてお聞きしたいです。
kemio 「私たちのクリエイションって、スタートが遊びの延長だったんです。それこそ仕事で“なにかを作るぞ”とか、“写真集を出すぞ”という目的から出会っているわけではなくて。ふたりで積み重ねてきたピースたちが集まってきて、“これを写真集にできたらいいよね”、“じゃあプラスで撮影してみようか”という流れで始まっているので」
美怜 「世の中に出ていないものがたくさんあるんですよ。公開するタイミングや、発表を逃してきたお蔵入り写真が山ほどあるくらい、kemioくんとはずっと一緒に撮ってきたんです。だから、誰かに見せることを前提にせず、純粋に“撮りたいから撮る”、“一緒にクリエイションしたいからする”という気持ちでずっと一緒に作ってきました。 kemioくんとは、『とりあえずやってみよう!』っていう感覚が合うんですよね」
kemio 「そうなんだよね。美怜ちゃんって、『NO』って言わない人なんです。第一声が『YES』で、とにかくやってみようって。なにか新しい物事に向かうときって、“こうしたほうがいいかな?”、“うまくいくかな?”って、どうしても成功するための手段をあれこれ頭のなかで考えてしまうと思うんです。けど、彼女はまず行動する。そんな姿勢から“とにかくやってみることの大切さ”を、言葉ではなく空気で教えてもらったなと思います。美怜ちゃんは、私にとってそんな“セーフスペース”を提供してくれた人でもあるんです」
——撮影中、印象的だった出来事はありますか?
美怜 「たくさんあるけど……。やっぱり“雨”じゃない?」
kemio 「そのときに撮影した一枚、美怜ちゃんが、『これ表紙になるよ! まだインスタあげないでね』って、言いながら撮っていたよね(笑)」
美怜 「kemioくん、すぐアップしたくなっちゃうから(笑)」
kemio 「この写真、ニューヨークから少し離れたところで撮影したときのものなんです。ロケの途中で土砂降りになって撮影が中断して。私は『せっかくここまで来たのにどうしよう』って、気持ちがダウンしていたんです。でも雨があがって日が差してきたときに美怜ちゃんがシャッターを切ってくれて。『雨が降ったあとこの景色になるのもわかっていた。だから、これが撮れたんだね』ってぽろっと言ったんです。そのときにハッとしました。この人、漫画の主人公なんですよ」
美怜 「(笑)」
kemio 「私って根っからのせっかちで心配性で、“あれ大丈夫かな”、“これ平気かな”って、常に考え出しちゃうタイプ。そのときも“この状況どうしよう”的な空気感を出していたと思います。でも、美怜ちゃんはその真逆。いい意味で『明日もくる!』という感じで、すごく前向きなんですよ」
美怜 「kemioくんって、外から見ると楽観的なタイプに見えるじゃないですか。だから同じタイプなのかなと思っていたら全然違って。ガリレオ並みに計算してテキパキ動いてる。頭の回転がとっても早いんですよ」
kemio 「もちろん楽観的な部分もあるけど、写真集は初めての挑戦だったから、いつも以上に焦っていたところもあると思う(笑)」
美怜 「だからこそ、お互いにない部分を補いあって、ひとつのエネルギーになっているのかもね」
——たくさんあるかと思うのですが、写真集のなかでお気に入りのカットはありますか?
kemio 「え〜!決められない!すべての写真に対して、多くの人が関わってくれているから。例えばこのシリーズは、SNSでフォロワーさんに向けて『こういう雰囲気の家に住んでいる方、撮影で貸してくれませんか?』と、募集して撮影したものなんです。このシリーズはNYの友達の家で撮らせてもらったもので……。それぞれのカットにいろんな出会いがあって、力を貸してくれた方々がいるので、ひとつに絞るのは本当に難しいですね」
other cut
other cut|NYにて
美怜 「私も選べないほどたくさんあるけど、自転車シリーズが好きかな。あと、公園の芝生で寝っ転がっている一枚。ほかの撮影はわりとコンセプチュアルなんですが、このカットはとくにテーマもないなかで撮影したものなんです。本当に素の状態のkemioくんと私で向き合ってシャッターを切ったので、その自然体な表情がすごく好きですね」
kemio 「それもいいよね〜」
美怜 「kemioくんは初めてディレクションした企画ばかりだし、どれも思い入れがあるよね。女将シリーズもいいんじゃない? 深夜4時くらいまでかかったやつ」
kemio 「あのときは、みんなそれぞれの戦いがあったよね。髪型の戦い、メイクの戦い、撮影の戦い、そして眠らない戦い!(笑)私はその日の朝にはニューヨークに帰る予定だったんですよ」
美怜 「最後まで諦めなかったよね。BPM150くらいの音楽かけながら撮影して、みんなかっこよかった」
kemio 「ディレクションさせていただいた視点でいうと、オフィスで撮ったシリーズは色々と勉強になりました」
美怜 「このシリーズはとくにストーリー性が強かったよね。kemioくんがどんな流れで、どういうカットを撮りたいのかを、すごく細かく頭のなかに描いていて。自分の立ち位置や、相手役のモデルさんのポジション、ライティングの雰囲気まで。映画のリファレンスを持ってきてくれて、具体的に指示してくれたのが印象的でした。私たちでこういう撮影をするの、意外とはじめてだったよね」
kemio 「このシリーズはグレッグアラキ監督の映画からインスピレーションを受けて、こういった雰囲気のものを作りたいなと思ったんです。自分の頭のなかを形にすることができて、本当に楽しかったな」
——こういったディレクションをしたページのほか、ご自身の35万枚にも及ぶカメラロールからピックアップされた写真も見所です。大量の写真の中からピックアップしていく作業は、自身の人生を編集するような感覚に近いのかなと思います。ご自身の人生を写真から振り返ってみて、どんなことを感じましたか?
kemio 「すごく楽しかったです。写真は2016年から2025年までのカメラロールから選びました。それこそアメリカに渡った当初は友達がいなかったので、自撮りばっかりだったんですよ。でも、それがどんどん他撮りになって、登場人物も増えていく。その変化を見て、人生ってこうやって色んな人と関わって、生活を築いていくものなんだなと、改めて感じました」
——とくに印象的だった年代などありましたか?
kemio 「コロナのロックダウン中ですかね。振り返ると、“あの一年はもうなにしてたんだろう?”ってくらい、無駄な買い物ばかりしていました(笑)。ピアノ弾いている写真や、粘土を捏ねている写真、ボトル片手に泣いている自撮りもあって。当時買ったものは、今はもうなにも残ってないんですが、“ああ大変そうだったな”って」
——kemioさんは、vineの動画から自身のキャリアをスタートさせています。「自身を撮る」ことを長く続けてこられたと思いますが、今回は被写体としての参加です。kemioさんにとって、「撮ること」と「撮られること」の違いは、どんなところに感じましたか?
kemio 「それこそ、美怜ちゃんが撮影してくれているときもよく質問していたんですよ。『レンズ越しに相手を見ていて、その人の表情からなにかわかる瞬間ってある?』って。“もう撮れたじゃん”、“まだ撮って欲しい”とか、わかられてたらどうしようかなと思って」
美怜 「バレてます(笑)」
kemio 「やっぱり(笑)!これまでの私は、すべて自分でコントロールできる範囲のことを多くやってきたと思うんです。ライブ配信も自分のタイミングでコメントを拾って話したり、動画もリリース前に自分で編集したり。だから“人を介して自分が表現される”というのは、自分の手では操縦できないおもしろさがあるなと思います」
——東京出身のお二人。この渋谷という街に長年息づく渋谷PARCOでの展示、そしてPARCO出版で、『kemio by kenta』がリリースされることへの率直な気持ちを教えてください。
美怜 「やっぱり渋谷は気合を入れて、歩きたくなる街だよね」
kemio 「本当にそう。それこそBPMが高めの音楽を聴きながら、闊歩したくなる街。そんな場所にあるPARCOで展示をさせていただけるのは、率直にうれしいし、感謝の気持ちでいっぱいです。これまで美怜ちゃんと積み重ねてきたことを、みなさんに見てもらえる機会をいただけたこと、そして、たくさんの方々に関わっていただけたことが、本当に幸せ。あと、今回“写真集を作る”ことが自分にとってもチャレンジングで、ここでまた成長できた部分がたくさんあると思うんです。このギフトをいただけたことに、心から感謝しています」
美怜 「kemioくんとまったく同じ気持ちです。ここまでがあっという間だったので、まだあまり実感が沸いてなくて、夢の中にいるような感覚。kemioくんとはこれまでずっと一緒にクリエイションをしてきたので、思い出もたくさん詰まっていますし、こうして作品として形に残る発表の場をいただけたこと、本当に感謝しています。私たちが作り上げてきたものを、たくさんの方々に見ていただけるのも、すごく嬉しいですし、ありがたいです。貴重な経験をさせていただきました」


——最後に、今回の展示や一冊が未来の自分や読んだ方々にどう届いて欲しいですか?
美怜 「この写真集では、いろんな表現にチャレンジできたなと思っています。私はこれまで“フィルム”を軸にしてきたんですが、今回はデジタルでも撮影をして、新しい手法を取り入れてみたんです。正直、“自分らしくない”、“向いてない”と、勝手に思っていたところがあったけど、やってみたら意外としっくりきて。自分のなかで固定観念を作っちゃってたんだなと気付きました。今回、この写真集を通して、自分の新たな面を知ることが出来たので、“何ごとも挑戦する”こと、“とりあえずやってみる”ことの大切さを改めて感じました。今の若い世代の子たちは本当に器用で、上手に表現できる子も多いけれど、それでも“まずはチャレンジしてみる”という気持ちは、大事にして欲しいなと思います」
kemio 「私にとって、この一冊と展示はセレブレーション。まずは、見て楽しんでもらえたらという気持ちが一番にあります。写真集を見ても感じてもらえると思うんですが、20代って“コスプレ”だと思うんです。まだ自分のことをわかっていなくて、なにを着るか、どんな髪型にするか、どこに遊びにいくか、どんな相手と遊ぶか。色んなことにアンテナを伸ばして、“これかも”、“あれかも”って、いろんなことを試しながら、自分の興味があっちこっちに動いていく時期だと思うんですね。でも、その道を歩き続けていくうちに、本当に自分の好きなものや、学びたいこと、やりたいこと、自分の価値観がどんどん見えてくる。20代って、そうやって“自分を知るための最高のギフト”だと思うんです。結局、環境は自分で作っていくもの。私がアメリカに渡米したときも、自分の人生に欲しいピースがあったから、とりあえずそこに向かった。そこから人や場所の巡り合わせで、今の自分がある。だから、本気で思い描いたものがあれば、自然とそこに辿り着くと思うんです。今回も写真集を作ることで、周りの方々のサポートや、環境のありがたさに気付くことが出来ました。けど、それって自分で切り開いていくもの。美怜ちゃんが話していたように、“まずは始めてみる”ことが、大切だなと思いますね」
PRESENT
Kemioさんサイン入りTシャツを抽選で2名様にプレゼント
2025年10月30日(木)~11月13日(木)の期間中、渋谷PARCO公式SNSにてプレゼントキャンペーンを開催いたします。
<応募方法>
①渋谷パルコTikTok(@parco_shibuya_official)公式アカウントをフォロー
②10月30日にUPされた、kemioさんサイン入りTシャツプレゼント対象投稿に「いいね!」
③「いいね!」していただいた投稿のコメント欄に、コメントをお願いします。
ご当選の方へDMにてご連絡致しますので、ご応募されるSNSのアカウント(渋谷PARCO 公式TikTok)のフォローおよびDM受信設定をお願いいたします。
※応募はお一人様一回限りと致します。
※既にフォローいただいている方も対象の投稿にいいねで抽選参加となります。
※当選の権利はご当選者様本人のものとし、第三者への譲渡(有償・無償を問わない)・換金を禁止させていただきます。
※Tシャツ(Mサイズ)
<当選発表>
厳正なる選考の上、2025年12月上旬頃、当選者にのみダイレクトメッセージにてご連絡し、賞品の発送をもって当選に代えさせていただきます。また、賞品の発送は2025年12月中旬頃を予定しております。諸事情により多少前後する場合がございますので、あらかじめご了承ください。
※期日内にダイレクトメッセージへの応答のない方・当選連絡後、住所等の情報のご提供のない場合は、当選が無効となります。
※当選された方から提供いただきます個人情報は、本キャンペーンの当選のご案内・賞品発送にのみ使用いたします。
※当選理由についてのお問合せは一切受け付けておりません。
※ソーシャルメディアの運用を妨害する行為、趣旨に反する行為、弊社が不適切を判断する行為は禁止致します。
※本キャンペーンは、予告なく変更・中止する場合がございますので予めご了承ください。

Information
展覧会
kemio photo exhibition「裏アカ」
会場
PARCO MUSEUM TOKYO(渋谷PARCO 4F)
開催期間
2025年10月3日(金)~10月20日(月)
主催
株式会社パルコ
企画制作
株式会社パルコ
協力
株式会社UNICORN / 株式会社DNPフォトイメージングジャパン
写真集『kemio by kenta』詳細
https://publishing.parco.jp/books/detail/?id=523
Official website
https://art.parco.jp/museumtokyo/detail/?id=1793
Official SNS
Instagram(@parco_art)X(@parco_art)
Instagram(@parco_pub)X(@parco_pub)

久野美怜
1996年東京都生まれ。2019年の1月より活動を開始し、同年3月に女子美術大学を卒業。柔らかな光の中に被写体本来の美しさを引き出す作品に定評がある。
Instagram(@kunomirei)





