「ふてほど」が2024年の「ユーキャン新語・流行語大賞」の年間大賞を受賞し、社会現象となったTBS金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』。衝撃的なラストを迎えた最終回から今日まで、主人公・市郎たちのその後が気になっていた人も多いだろう。そんな『ふてほど』が満を持して、2026年1月4日(日)にスペシャルドラマ『新年早々 不適切にもほどがある! ~真面目な話、しちゃダメですか?~』としてカムバック! さらに、渋谷PARCO内の「GALLERY X BY PARCO」では、12月25日(木)〜2026年1月12日(月)の間、「#不適切な展示しちゃダメですか?展」が開催決定。それを記念し、本作の主演・阿部サダヲとプロデューサー・磯山晶の両氏をお招きし、ふたりの出会いからスペシャルドラマの見どころまで、たっぷりお話を伺った。
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- Takao Iwasawa (THE VOICE)
- Styling
- Chiyo
- Hair & Make-up
- Tomomi Nakayama
- Text
- Yoko Abe
- Edit
- RCKT/Rocket Company*
――おふたりは今までに何度もお仕事をされていらっしゃいますが、いちばん最初の出会いは何がきっかけだったのでしょう?
阿部サダヲ(以下、阿部) ドラマの『キャンパスノート』ですね。
磯山晶(以下、磯山) そうですね。内田有紀さん主演のTBSドラマで、私はプロデューサーでした。阿部さんは何話目かのゲストで、内田有紀さんたちの合コン相手の大学生役をやってもらって。
阿部 96年のドラマだから、僕もかなりフレッシュでしたね(笑)。あの時、どうして起用しようと思ったんですか?
磯山 大人計画の長坂まき子社長が、「磯山さん、阿部に会ったら一目で虜になりますよ」って仰ってたんですよ。それで「え、そうなの?」と思って、出ていただくことにしたんです。でも、長坂さんのご著書『大人計画社長日記』(角川文庫)にこの時のことが書いてあるんですけど、長坂さんがすごく期待してリハーサルの様子を見にきたら、私が全く阿部さんを見ていなくて、眠そうな顔をしていただけだった、って(笑)。
阿部 本当ですか? そんなこと書いてあるの?(笑)。
磯山 そうなんです(笑)。だからその時は正直あまり印象に残っていなくて、その後のドラマ『池袋ウエストゲートパーク』でご一緒して「本当にすごい人だ」とわかったんです。
阿部 僕、『池袋ウエストゲートパーク』の前に磯山さんと食事をした記憶がありますよ。どこだったかな、長坂さんを通してだと思うんだけど。
磯山 え!? 私は食事した記憶ないですよ!?(笑)。
阿部 何人か一緒にだったと思うんだけど。当時は僕もまだ若くて、劇団に入ったばかりの素人みたいな感じだったじゃないですか。だから磯山さんとお会いして、テレビのプロデューサーってこういう人なんだっていうのを知ったんですよね。それまでにもドラマに出た経験はあったけど、その時のプロデューサーさんはあまり現場に来るタイプじゃなかったから。磯山さんはいつも現場にいらっしゃるじゃないですか。それもあって、すごく印象深かったですね。
磯山 ありがとうございます、私には全くその記憶がないけれども(笑)。

――『不適切にもほどがある!』では阿部さんが主役の小川市郎を演じていらっしゃいます。磯山さんから見て、主演としての阿部さんの魅力や「ここがすごい」と思う部分はどんなところでしょうか。
磯山 そうですね。宮藤官九郎さんの書く脚本への理解度が非常に高いというところでしょうか。もちろん宮藤さんと長年お仕事をしていらっしゃるということもあると思いますが、それを差し引いても脚本への理解や解釈が深いんです。それから、品があるところも阿部さんの魅力ですね。『ふてほど』では、クランクインする前に演出の金子文紀さんと「最近はドラマで大声を出すだけで人は嫌われるから、市郎の声の大きさはどのぐらいにしましょうか?」という相談をしていたんですね。でも、本番に入ったら阿部さんがとんでもなく大きな声を出していて(笑)。正直大丈夫かな? と思ったんですけど(笑)、編集して繋がった作品を観ると、阿部さんの演じる市郎には品があるんです。
阿部 大声なのに(笑)。

磯山 そうなんですよ。大声なのに、品がある。下品なことを言ったりやったりしていても品があるんです。阿部さんは、例えていうなら五種競技のすべての種目で得点が高い役者さん。テンポがいいとか、それでいて人情味があるとか、そういう魅力の蓄積からその上品さが生まれているのかなと思っているのですが、いかがですか?
阿部 ありがとうございます。うーん、役の言っていることを、僕自身はそうだと思っていないっていうのは大事だと思います(笑)。例えばドラマの中では吉田羊さん演じる向坂サカエに「更年期障害だろう!」なんて言ってるけど、僕自身はそんなこと思っていなくて普通に「失礼だろ」と思ってる。僕の場合、演技には内なる思いが大事だったりするのかもしれません。

――阿部さんにお伺いします、“黄金タッグ”とも言われる、プロデューサー・磯山晶さん×脚本・宮藤官九郎さんのコンビとは長くお仕事をされていらっしゃいます。『不適切にもほどがある!』では初めて主役を演じられましたが、やりやすかったところや、逆にやりにくかったところはありましたか。
阿部 クランクインまで、主演だというプレッシャーはすごく大きかったです。けれど、現場に入るとそんなものなくなっちゃいました。磯山さんも毎回現場にいらっしゃるし、安心感があるっていうかな。みんな仲良くやってましたね、怒鳴ったりする人も1人もいないし(笑)。
――『不適切にもほどがある!』はコンプライアンスを真正面から取り上げているドラマゆえに、ドラマ自体がコンプライアンスに対してどう向き合っているか問われる部分もあったと思います。現場のムードはいかがでしたか?
阿部 連続ドラマの時もそうでしたが、今回のスペシャルドラマの現場でも言いたいことは言えるような柔らかい雰囲気があって、すごくよかったと思います。結局、現場には面白いものを作ろうと思っている人たちしかいないんですよね。それから、今回役者をやっていて初めてインティマシーコーディネーターの方がついてくださいました。
磯山 実は今回、インティマシーシーンがあるんです。もちろん家族で見ることができるラインにしていますが、チャレンジではありました。
阿部 体と体の間にウレタンみたいなものを挟んでね。こんなことするんだって驚きました(笑)。


――今お話にも出た、TBSのスペシャルドラマ『新年早々 不適切にもほどがある! ~真面目な話、しちゃダメですか?~』が2026年1月4日(日)に放送予定です。見どころを教えていただけますか?
阿部 やっぱりミュージカルシーンかな。連ドラの時は、最初監督やプロデューサーの方たちが気にしていたんですよ。「ミュージカルあんまり受けてない」とか「ミュージカルいらないって言ってる人いるよ」みたいな(笑)。
磯山 オンエアするまで不安でいっぱいだったんですよ。何やってるんだろうと思われたらどうしようって。
阿部 蓋を開けてみたら、ミュージカルがいいって言う人もいるし、演者としてはそんなに評判は気にならなかったです。そもそも、僕らはずいぶん前から振り付けを覚えているから、今さらやめられないし(笑)。今回も止まらないですよ(笑)。
磯山 今回も阿部さんをはじめ皆さんに何曲か歌って踊っていただいていますね。オリジナル曲もあるし、マッチさん(近藤真彦さん)の歌も登場します。何人もの阿部さんが1画面に出てくるシーンは見どころです。一人分ずつ撮影していて、しかもワンカットではないから、とにかく何度も何度も踊っていただきました。阿部さんはきっとうんざりしましたよね?(笑)。
阿部 はい(笑)。あの曲僕、何回聞いたか分かんない(笑)。しかも、100回以上着替えたんですよ。
磯山 それから、女性初の総理大臣を狙う議員役として、江口のりこさんが登場します。現実に先を越されてしまった感がありますが、その一方でまさに今の時代のことをやっているドラマなんだと思いました。政治、それから日本はどうあるべきかという話をしています。
阿部 江口さんが踊ったりするのも珍しいですよね。江口さんって、いつも機嫌悪そうな役が多いじゃないですか。今回は楽しかったって言ってましたよ(笑)。
磯山 豪雨の中、江口さんと磯村勇斗くんが踊るシーンがあるのですが、これは映画の『ラ・ラ・ランド』を意識して作りました(笑)。連ドラのミュージカルシーンは『RRR』を意識していたんですが、今回は『ラ・ラ・ランド』ですね。
阿部 宮藤さん『ラ・ラ・ランド』好きですね(笑)。

――社会現象にもなった『不適切にもほどがある!』ですが、作品が人気になった影響はありましたか?
阿部 僕そんなにものまねとかされたことがなかったんですけど、市郎のものまねをしてくださる芸人さんがいらっしゃって。ありがたいですね。
磯山 私もテレビで観ましたよ。録画もしちゃった(笑)。びっくりするような偉大なミュージシャンの方が褒めてくれるということもありました。『ふてほど』がカルチャー的に、何か呼び起こすような作品だったのかもしれませんね。楽曲を使わせていただいた松本隆先生も、SNSで「ぼくはクドカンに愛されているような気がするんだけど」と書いてくださったり(笑)。本当にありがたいです。『ふてほど』ファンの方たちのおかげで、今度渋谷PARCOさんで展示をさせていただくことにもなりました。
――12月25日(木)〜2026年1月12日(月)に「GALLERY X BY PARCO」で開催される「#不適切な展示しちゃダメですか?展」ですね。
磯山 設営がまだ先なので私たちも見ていないのですが、作品に登場する喫茶店「すきゃんだる」が再現される予定です。撮影セットに入るような体験を楽しんでいただけます。

――それは楽しみですね。渋谷PARCOでの展示ということですが、お二人は渋谷PARCOに思い入れや思い出はありますか?
阿部 まだ渋谷PARCOがパートⅠ、Ⅱ、Ⅲとわかれていた頃、パートⅢの上にあった映画館で、当時好きだった女の子と映画を見ようって約束をしたことがあって。渋谷PARCO近くのバスの停留所で待ち合わせして一緒に行きましょうと言っていたんですが、その場所が食い違っていたんでしょうね。結局会えなかったんですよ。まだ携帯もないし、来ないならしょうがない、これで終わりだなと思って一人で映画を見たんです。
磯山 そんなことがあったんですか。映画館で待ち合わせすればよかったのに(笑)。
阿部 そうなんですよ。会えなかったとしても映画を見ようって言ってるんだから、映画館に来ればいいじゃないですか。その後、彼女と大喧嘩になりました(笑)。相手は僕が待ち合わせに来ないから、騙されたって思って帰ったらしいんです。僕は僕で「なんか失礼な女だな」って思っていて。でも、その会えなかった人は、結局僕の奥さんになりました(笑)。


磯山 いい思い出じゃないですか(笑)。渋谷PARCOには、特に若い頃よく行ってましたね。宮藤さんに連れられて行ったCLUB QUATTROで、初めて氣志團を観たのは印象深いです。それで『木更津キャッツアイ』にキャスティングして。青春って感じです。
阿部 そうだったんだ。あと僕は、渋谷PARCOに行こうとスペイン坂を歩いている時に、雑貨屋さんのゴミ箱からボヤが出たのを見たなぁ。それで渋谷PARCOに行くのをやめた思い出があります(笑)。
磯山 2003年に、渋谷PARCOの前にあったシネマライズという映画館で、映画『木更津キャッツアイ 日本シリーズ』の公開があったんです。初日、スペイン坂の下のファストフードのお店から様子を見ていたら、シネマライズを何周もするぐらい行列ができていてすごく感動しました。あ、でも近いっていうだけで渋谷PARCOの話じゃないか(笑)。
阿部 どっちも渋谷PARCOの話じゃなかったですね(笑)。今日はお話できて楽しかったです。ありがとうございました。
磯山 こちらこそ、ありがとうございました。


シャツ ¥30,800、ジャケット ¥58,300、パンツ ¥39,600/すべてCONFECT
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Information
展覧会
不適切にもほどがある!#不適切な展示しちゃダメですか?展
会場
GALLERY X BY PARCO(渋谷PARCO B1F)
開催期間
2025年12月25日(木)〜2026年1月12日(月)
主催
株式会社パルコ
Official website
https://art.parco.jp/galleryx/detail/?id=1849
Official SNS
Instagram(@parcogx ) X(@parco_x )
TBS新春 スペシャルドラマ
『新年早々 不適切にもほどがある! ~真面目な話、しちゃダメですか?~』
2026年1年4日(日) よる9時放送
Official website
https://www.tbs.co.jp/futekisetsunimohodogaaru/

阿部 サダヲ (あべ さだを)
1970年生まれ、千葉県出身。 1992年、舞台「冬の皮」でデビュー。2022年にNODA・MAP番外公演「THE BEE」にて読売演劇大賞優秀男優賞、2024年に映画「シャイロックの子供たち」にて日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。 2025年にドラマ『不適切にもほどがある!』にて芸術選奨文部科学大臣賞放送部門受賞。近年の出演作に、舞台「大パルコ人⑤オカタイロックオペラ雨の傍聴席、おんなは裸足…」、ドラマ「広重ぶるう」「しあわせな結婚」等がある。

磯山 晶(いそやま あき)
1967年生まれ、東京都出身。上智大学文学部新聞学科卒業後、株式会社TBSテレビ入社。プロデューサーとして携わった主なドラマ作品は『池袋ウエストゲートパーク』(2000)、『木更津キャッツアイ』(02)、『タイガー&ドラゴン』(05)、『流星の絆』(08)、『空飛ぶ広報室』(13)、『ごめんね青春!』(14)、『恋は続くよどこまでも』(20)、『俺の家の話』(21)、『不適切にもほどがある!』(24)など多数。24年7月、a.i(エードットアイ)を設立。




