COLUMN:鏡面界星雲(1)
帰ってきた コーネリアスの惑星見学
鏡面界星雲(1)
見学猿|コーネリアス a.k.a 小山田圭吾 記録係|辛島いづみ 写真係|端 裕人
実に17年ぶりの惑星見学である。前回30代だった見学猿ことコーネリアスこと小山田圭吾も50代に突入。立派な中年見学猿となった。記録係は故・川勝正幸氏から引き継いだ2代目だが、担当編集Yも小山田のマネージャーT氏も当時と同じで、写真係は見学班ではなかったが小山田とは旧知の仲。勝手知ったるメンバーがそろうと、前回の見学が1ヵ月前のことだったように思えてくるのが不思議なり。
さて。今回はどこの惑星を見学しようかと相談に行くと、小山田は1枚のレコードを取り出してきた。ロバート・フリップとブライアン・イーノが1973年にリリースしたアルバム『ノー・プッシーフッティング』。ジャケは鏡張りの部屋にフリップ&イーノが座っているのを斜俯瞰から撮った写真である。
小山田 ジャケも音も鏡面の世界を表現してるのが気に入ってて。ずっと気づかなかったけど、置いてあるギターも鏡。溶け込んでてわかんなかった。
記録係 なんか、遊園地のミラーハウス感が(笑)。
小山田 そう、それ。〈としまえん〉にミラーハウスがあって、子供の頃に行ってたから、また行きたいと思ってたのにボンヤリしてたら閉園しちゃった。
記録係 好きですか、ミラーハウスは。
小山田 好き。いまもたまにトイレとかエレベーターとか鏡張りだと見入っちゃう。異次元を感じるじゃない、鏡の世界って。子供の頃、家の三面鏡で一体何個まで奥が見えるのかなってよく数えたもん。
記録係 あんまやりすぎちゃうと「向こう側の世界に吸い込まれるかも!」って怖くなるという(笑)。
小山田 『鏡の国のアリス』的な感じだよね。それが最近、微妙に増えてきたなあと思う、鏡面界的な場所が。例えばこれ、ネットで拾った画像だけど(と、スマホの「鏡面界フォルダ」を開く)。原宿の東急プラザの入口とか、商業施設はわりと多くて。あと、早稲田大学の3号館もなかなかの鏡面界なんだよね。
記録係 ていうか、画像集めてるんですか(笑)。
小山田 鏡面界ブームがくるんじゃないかと思ってさ(笑)。地味に自分でクリップしてるんだけど。
みうらじゅん化している見学猿であった。
という次第で、「鏡面界」見学へ。まずは、AIを駆使した鏡面界を体験できる〈Galaxy Harajuku〉へ。スマートフォンのブランド「Galaxy」が、昨年原宿にオープンしたショーケース。最新製品をアトラクション的に楽しむ施設だ。中でも、壁に曲面ディスプレイが埋め込まれた空間「Social Galaxy」は圧巻。インスタアカウントをひとつ入力すると、投稿画像がランダムにディスプレイに映し出され、それが壁や床や天井の鏡に反射、万華鏡の中にいる感覚になれるのだ。ひとり閉じこもった見学猿、しばらくすると魂を抜かれた顔でひょっこり出てきた。
記録係 だ、だ、大丈夫っすか!?
小山田 ヤバかった。ただの鏡面界ではなかったね。まるでクリストファー・ノーランの『インターステラー』(’14)の映像の中にいるような感覚。
記録係 多次元宇宙をさまよう、あの感じですか?
小山田 一体何次元あるのかっていう。最近、有名な物理学者が「時間は存在しない」っていう説を発表したのが話題になったでしょ。もともと時間って人間が作り出した概念で、現在も未来も過去も同じ瞬間に存在しているのだと。そうすると宇宙の果てという概念がなくなるんだけど、なんかそんな感じ。
記録係 わかるようなわからないような。『インターステラー』では5次元に行った主人公が本棚の裏から幼い頃の娘にモールス信号を送ってましたけど。
小山田 そのくらいシンプルなんだと思う。リアルには想像できないけど、パラレルワールド的に少しずつ違う世界が同時に存在するってことだろうね。
記録係 それをつきつめて考えていくと、なんだか怖くなりますね。じゃあ「いま」って何なのかって。
小山田 答えなんて一生わかんないよ。考えれば眠れなくなるだけだし。でもそれがちょっとだけ見えてくる気がするのが鏡面界。だから好きなのかも。やっぱさ、鏡ってすごいよ。神道の三種の神器のひとつは鏡じゃない。鏡に魅せられるんだね、人間は。
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