COLUMN:
2020あったかコラムA to Z(1)
Edit Gabin Ito、 Toshiko Nakashima text Gabin Ito(ガ), Shinya Yashiro(や)、Chika Goto(ご)、 Toshiko Nakashima(な) illustration Hagie K assit Rina Iwamoto
2020は、コロナによって引き起こされた数々の出来事によって遥か未来にまで記憶と記録に残るだろう(破棄されなければ)。と、思うんですけどね、でも、実際には、もうすでに忘れてることいっぱいあるな〜とも思うんです。
アマビエのことは覚えていても古代の乳製品「蘇」のレシピが爆速でSNSに拡散したこととかもう覚えてないんじゃないですか? 給食がなくなり、廃棄されるしかなくなった牛乳をどうにか消化しようとアマビエのように復活した「蘇」。大規模な災害が起こる時、猜疑心に苛まれ暴力と差別を煽る動きとは裏腹に、隣の人に手を差しのべたくなる気持ちも生まれまくる。
他にも、いいこともいっぱいあったよね。今まで決断と実行を躊躇してた物事がぐいっと動き出したり、ステイホームならではの見たことないアートもいっぱい見ることができた。
そんな小さくてあったけーアクションを、2020の記録として覚えておこうじゃないか!
A
ART
自宅で名画を再現するブーム!
あらゆる公共施設が機能停止するなかで、美術館でアートと触れ合う時間ともしばしのお別れに。その間、Instagramでは「#tussenkunstenquarantaine」(アートと隔離の間/自宅で名画を再現しよう)がトレンド入り。渾身の顔マネや、飛び道具的に登場させられる健気な愛犬、当たらずとも遠からずなゆるコスプレなどなど……。一度は目にしたことのある荘厳な名画を家にあるモノだけで無理くり再現(Photoshopは使用禁止!)しようと奮闘する世界中のアートファンの姿は、どれもちょっと滑稽なんだけど同時に愛おしくもあり、タイムラインは大いに沸いてました。10月にはこれらのチャレンジをまとめた書籍『Off the Walls: Inspired Re-Creations of Iconic Artworks』が発売され、その売り上げはすべて米国のアーティスト支援プログラムへ寄付されるそう。(ご)
tussenkunstenquarantaine(インスタ)
B
BOOK
コロナ時代には本が売れる
想像を超える社会的危機に直面しているとき、人々はやはり過去の記述や記録に何かしらヒントを求めたくなるもの。1947年に発表され、69年には日本語版も出版されたアルベール・カミュの小説『ペスト』(宮崎嶺雄訳/新潮文庫)が今年に入って飛ぶように売れていて、4月にはなんと累計100万部を突破したらしい。半世紀以上前に疫病が民衆の間に引き起こした混乱は寓話のように現代のウイルス禍と重なり、その淡々とした筆致にゾッとさせられる人が続出。一方『コロナ禍日記』(タバブックス)などを筆頭に、緊急事態宣言下で書かれた日記を集めた本が複数の出版社から同時多発的に刊行されているのも面白い現象。緊急事態もひとたび日常になると心の機微から先にどんどん忘れていってしまうわけで、未来から参照されるメディアとして、やっぱりいまだに本は強しです。(ご)
『小説「ペスト」100万部 コロナ禍受け人気に火』
Billy H.C. Kwok/Getty Images News/ゲッティイメージズ
C
CARRY
ピアノと先生が家にやってくる
小さいころ、やたらとキャンピングカーに憧れていたので、コロナ禍で注目を浴びた「可動産」にワクワクしっぱなしだった。たとえば香港で始まったのは、移動ピアノ教室。このニュースがよかったのは、他の仕事にも応用できそうなところ。スーパーでも便利そうだし、密になりがちな美容室もできそう。駐車場などで飲食を提供するフードトラックや、軽トラの荷台を家に改造したモバイルハウスの人気上昇の裏では、移動図書館も復活してるみたいですし。言ってしまえば、クルマ付きの不動産なのですが、動かない不動産であるところの家にいる時間が増えた結果、自由に移動できる施設の価値は以前より高まっているみたい。誰も来られないのであれば、家の近くまで行けばいいという逆転の発想は、単純だけどポジティブな気持ちをくれます。(や)
『「オンライン授業は向かない」 移動式ピアノ教室でレッスン継続 香港』
D
DISTANCE
カピバラに言われちゃね
レストランに入ったら検温されて手指消毒して…が当たり前になった今。対角線上に座って食べるのも慣れたけど、どうせならこんなディスタンスを。伊豆シャボテン動物公園の「森のどうぶつレストランGIBBONTEI(ギボン亭)」ではカピバラやレッサーパンダたちと強制的に相席させられる♡ ちなみに、カピバラ2頭分(2m)が人が歩く時のソーシャルディスタンスだそうです。私はネコがいい!という人には長崎の「島鉄バス」がおすすめ。2席の1つにネコのぬいぐるみが座っていて「SDC」という名前がついてます。「ソーシャルディスタンスキャッツ」つまり「島原・大好き・キャッツ」だって。(な)
伊豆シャボテン公園公式サイト
E
EMPTY
空っぽの美術館に行った?
空っぽの空間って清々しくて気持ちがいいもんです。美術館も博物館もパンデミックを受けて年間展示スケジュールを全面的に引き直さざるを得ない状況だったはずですが、そんななか今夏に世田谷美術館が企画した「作品のない展示室」は、逆転の発想が冴えた粋な試み。その名の通り、一切の作品を取り払った空っぽの展示室を無料で公開してしまうという潔さ。美術館のそんな姿を目にするなんて、訪れたほとんどの人にとって初体験だったはず。しかも広い窓を擁した展示室を囲むのは、砧公園の燃えるような木々の緑。建築の美しさも相まって生まれるどこか浮世離れした風景に、来館者たちはどんな思いを馳せたんでしょうね。(ご)
美術手帖記事『コロナ時代に「作品のない展示室」が伝えるもの。世田谷美術館の試み』
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