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Interview Coco Capitán|個展「NAÏVY: in fifty (definitive) photographs」

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Interview Coco Capitán|個展「NAÏVY: in fifty (definitive) photographs」
Interview Coco Capitán|個展「NAÏVY: in fifty (definitive) photographs」

GUCCI、A.P.C.、COS、NIKE、DIORなど、さまざまなブランドとのコラボレーションで世界中から注目を集めるスペイン人アーティスト、ココ・カピタン。そんな彼女の日本初個展「NAÏVY: in fifty (definitive) photographs」が、PARCO MUSEUM TOKYOにて開催中だ(~5月9日)。ロンドン、アムステルダムと巡回した個展をベースに、同シリーズの完成形となる本展では、手作業でプリントされた50点の写真作品を、ファウンド・オブジェ作品(ココ自ら刺繍したセーラー服と初公開となる「Lost Naïvy」の3枚の旗)とともに展示する。また、「NAÏVY」シリーズの決定版となる作品集もPARCO出版から6月刊行予定だ。

船上で無垢な姿で佇む天使のようなふたりの子ども、水平線を見つめるセーラー服の水兵の後ろ姿、濃紺色の海に解き放たれたように半裸で飛び込む女性……どこかノスタルジーを漂わせる美しい写真群は、迷子の「Naïvy」たちが住む想像上の海の世界に捧げたものだ。無垢と成熟の二面性を抱えた不器用で未熟な人間像に、私たちは自身を投影せずにはいられない。ココの手によって迷子の一員として優しく受け入れられ、ともに海の上を漂流している気持ちになるだろう。今回の展示の構成からプリントへのこだわり、幼い頃のエピソードや日本への思いについて聞いた。

Photo
Sachiko Saito
Text
Momoko Suzuki
Interpreter
George Bodman
Edit
RIDE MEDIA&DESIGN inc.

——今回の展示のコンセプトについて教えてください。

「『Naïvy』は、海軍や濃紺色を意味する『Navy(ネイビー)』と、純真や無垢を意味する『Naïve(ナイーブ)』をミックスした造語です。幼い頃から海が好きで、ずっと海に惹かれて過ごしてきました。同じように、昔から船乗りにも興味がありました。私はなぜ海や船乗りにこんなにも惹かれるのだろうという疑問から、その理由を見つけようと始めたのがこのシリーズです。疑問を追い求めたいと思って始めたもので、いまも答えが見つかったわけではありません」

——この展示をもって、「Naïvy」シリーズを完結することを決めたのはなぜですか?

「今回はこのシリーズの最終形として、10年間ずっと撮り続けてきた写真から最も気に入っている50点を選びました。撮りためてきたアーカイブの中から、サイズや技法など、いろいろ試して突き詰めました。この作業をすることで、海に執着してきた10年から離れて、次のプロジェクトに移れるのではないかと思ったのです」

——幼い頃は、海の近くで暮らしていたのですか?

「スペインのセビリアで生まれ、7歳からシンクロナイズドスイミングを習っていました。とても厳しいチームだったので、平日は4時間、週末は朝10時から夜10時まで毎日トレーニングがあり、真剣に練習に取り組まないといけない日々を送っていました。11歳の時にスペインの端にあるカディスという町に引っ越したのですが、残念ながら、その町にはシンクロナイズドスイミングのチームもプールもなかったのです。でも代わりに、そこには海がありました。ある意味、シンクロナイズドスイミングの厳しさから解放してくれたのが海だったのです。四角い箱の中で泳ぐことも、厳しいトレーニングもなくなって、毎日、学校に行くまでの海沿いの道を自転車で走るようになりました。そんな毎日を過ごすようになったことで、私の中で海は自由の象徴になり、プレッシャーや時間から解き放たれて、やっと自分を解放させてくれる場所になりました」

——どんな子ども時代だったのでしょうか? 他人と違う不思議な感覚を持っていると感じたことはありますか?

「他人と違う感覚を持っていると感じたというよりは、私は孤立しているのではないかという印象を受けたことが幼い頃にありました。小さな町に生まれ育ったので、アートや写真への興味関心を共有できる友人がほとんどいなかったのです。シンクロナイズドスイミングは厳しく、残念ながらチームメイトに苛められることもあり、チームの中で疎外感も味わっていました。でも学校のクラスメイトはとても親切だったし、仲良くしていましたね。私はオタク気質で勉強もできる方だったので、宿題を教えてあげたり、テスト中に答えを見せてあげたこともありました(笑)。他人と興味関心が違うという部分を意識していましたが、その違いは良いことだと思っていましたね」

——水兵の姿やファウンド・オブジェのセーラー服も、幼い頃に見ていた景色がインスピレーション源になっているのでしょうか?

「いいえ、スペインの海軍はこういう感じではないんです。これらは第二次世界大戦中に使われていたアメリカのセーラー服で、私たちが海軍や水兵を想像する時にいちばんに頭に浮かんでくるイメージだと思います。そういう意味で、このセーラー服を象徴的に使っています。海軍以外にも船の設計や仕組みに興味があるので、モチーフにしているということはありますが、私の人生で見てきた水兵の姿というわけではなく、あくまでも想像上の水兵を象徴として作りだしたものです」

——半身が制服で半身が裸という構成がよく用いられていますが、どんな意図があるのでしょうか?

「制服とはどこかに所属していることを意味し、コミュニティや団体の象徴であると思うのです。そして半身が裸であるということは、個人の象徴や個性を表しています。どこかに属していながらも、自分の個性を失っていない状態。そこにはある意味ジョークも含まれていますが、制服によってどこかに所属しているという形式を崩したいという思いから、たとえば、セーラー服に個性の象徴である刺繍を施したりもしています。刺繍によって、どこかの団体に所属している状態を崩し、個性が出せるのではないかと思ったのです」

——人間は、規律と自由の狭間で葛藤する生きものだということを実感させられます。

「私自身、社会にフィットするのが難しいと思う時も、ルールに縛られて生きることが辛いなと感じることもあります。特にアートで生計を立てているので、簡単なことばかりではなく、辛いことややりたくないこととも向き合ってきました。アートの世界ではやや古風と感じられるかもしれませんが、下積みを頑張った方だと思っています。でも、ある時から、あまりにも他人を気にしすぎたり、常に正解を求められながら生きていかなければならないことに疑問を感じるようになりました。言われた通りに従って生きていこうとは思わなくなったのです。このシリーズで『LOST』という言葉を用いたのは、誰もが自分にとって居心地の良い場所を見つけるために迷子になること、自分が求めている場所を掴むまで、社会や他人の目から一度外れて迷子になることを祝福したいと思ったからです」

——写真やセーラー服の刺繍などに、デイジーの花もキーシンボルとしてよく登場しますね。

「デイジーも、海と同じように自然と惹かれるものです。青とセーラー服とデイジー。この3つは、自分では理解できないけれど、なぜか昔から惹かれるもので、このシリーズの共通キーワードになりました」

——セーラー服が団体に属すことを表すならば、デイジーは解放のシンボルですか?

「もしかすると、そうですね。自由の象徴とリンクしているかもしれません。日本ではわからないけど、イギリスでは、デイジーはそこら中で咲いている雑草のような花なのです。でも、とても美しい。手塩にかけた花が好きだという人も多いと思うけれど、私は、デイジーのようなその辺りの道端に咲いている花が大好きです。自由の象徴でもあり、力強さも感じられるので、とても惹かれますね。そして、もうひとつ、日常に感謝するということも私のテーマです。必要以上にユニークだったり、独自性の強いものを取り上げるのではなく、日常の中にも美しいものはたくさんあるし、そういうものをモチーフにしていきたいと思っています。日常に感謝するという意識が、デイジーに表れているのかもしれません」

——メインビジュアルはシリーズの中でも意外性のある作品に感じたのですが、この作品を選んだ理由を教えてください。

「PARCO MUSEUM TOKYO側からの提案に入っていた1枚だったのですが、私も展覧会の内容をすべて語ってしまうような作品を選びたくはなかったのです。ミステリアスで、これは何だろうと考えさせるようなビジュアルを敢えてメインにすることで、人々の興味を惹くのではないかと考えました。写真のパンツはセーラー服のボトムなのですが、テーマに関わりながらもシンプルなビジュアルで、人々に余計な期待やイメージを植え付けることはありません。この作品は、『Dazed』誌のポートレートシリーズで撮影した時のものです。広告や雑誌の撮影中に必要のないディテールを撮っておいて、それを自分の作品として発表するということを私はよくやるのです」

——写真はすべて手作業のCタイププリントで、こだわって制作されたと聞きました。

「はい、Cタイププリント(クロモジェニックプリント)です。テクニカルな話ですが、大変というよりは、とても時間がかかるのです。ネガの上から転写する紙に投影して、暗室の中で写るまで待つのですが、少し色を変えたいというだけでも、一度テストをして10分待たないといけません。コダックと富士フィルムしか持っていない大きなロールのプリント紙を、暗室の中で写真のサイズに合わせて切るところから始まります。ロンドンで作業したのですが、幸いなことに、ジョン・マッカーシーの助けを得ることができました。彼は、人生の大半を写真の現像に捧げてきた職人です。一緒に作業をする中で、彼の持ちうる知識はすべて教えてもらうことができたと思います。それに現像に時間がかかるということは、逆に、自分の作品を見つめ直す機会になります。細部まで私の意志を反映できたし、そうやって時間をかけて作業ができたのはとても幸せなことでした」

——海の濃紺色も写真ひとつひとつ異なり、とても美しく印象的です。

「私は色へのこだわりが人一倍強いので、それぞれの色を作り出すために、デジタルではできないアナログな技法を使っています。暗室ではフォトショップが使えないので、この部分をクリアに見せるために露出を上げて、でもこの部分は隠してプリントして……と、自分の求めるさまざまな青を出すことにこだわりました。最近のアーティストはアナログな作業を好む人も減っているかもしれませんが、実際にこういう手法で現像すると、仕上がりの違いが顕著に現れます。ジョン・マッカーシーの助けがあったからこそできることだったし、すごく複雑な工程を経てでき上がったものです」

——写真の下には言葉が綴られていますが、写真と言葉の表現はどのように使いわけていますか?

「今回の『Naïvy』シリーズに関しては、写真と言葉の両方を使うことが重要だと思っていたので、両方を用いることにしました。でも言葉は私のほとんどの作品の始まりであり、より自分の気持ちを伝えられるかなと思う時には、言葉のみの作品で表現しています。あえて言葉を使わない方が伝わると思った場合には、写真を選びますね。写真は、手を加えて編集して作品にしていきます」

——日常の瞬間を言葉として綴る習慣があると聞きましたが、その習慣はいつからですか?

「自分の言葉を書き始めたのは、12、13歳の頃です。もちろん、いまのスタイルとは違ったのですが……。でも、文字を書くのを覚えた6、7歳の頃から、ノートに絵や文字を描くのが好きでしたね。そのノートはいまでも取ってあります。8歳の頃からは、毎日、日記を綴っていました。写真の切り抜きを貼ってみたり、コラージュしたりして。そうやって自分でノートを作ることは、その頃からずっと続けていますね」

——SNSが登場してから、その習慣に変化はありましたか?

「私にとっては、SNSよりもノートに書き留めることの方が先なのです。それから自分の言葉を精査して、みなさんに共有してもいいかなと思うものをSNSにアップしています。もともとシャイな子どもだったので、自分の思いを一度ノートにすべて書き出して、それを読み返してから誰かに伝えるという癖をつけていたのです。そのため、いまでもSNSに投稿するより前に、ノートに自分の思いを書き出しています」

——日本を訪れたのは初めてですか? 日本で好きな場所はありますか?

「今回で3度目です。日本は、もしかしたらいちばん好きな国かもしれません。日本のさまざまな文化にも当然興味があります。建築や庭園は必ず巡るし、そのディテールへのこだわりや謙虚さも好きです。日本人にとっては当たり前だったり、堅苦しかったり、もしかしたらつまらないと思うかもしれないけれど、私から見ると、日本の礼儀作法や日常のルールが素敵だし、おもしろいなと思うこともたくさんあります」

——たとえば、日本のルールのどんなところに魅力を感じますか?

「私は興味が湧いたことにはすぐに飛び込んで、いますぐやりたいというタイプなので、なかなか待つということができないのです。いま日本でとても素晴らしいホテルに滞在していて、もちろんそのサービスに不満があるというわけではないのですが、たとえば、朝起きてコーヒーとクロワッサンを食べたいと思ってルームサービスを頼むと、欧米だといますぐ持ってきてほしいと伝えなくても、なんとなく察知してすぐに持ってきてくれるんですね。でも日本だと『あなたの朝食は30分後に用意されます』と丁寧に言われて、待たされることになります。でも、ちゃんと待てば、サービスの人がやってきてきっちりと朝食を並べてくれます。待たないといけないけれど、待ったらちゃんとやってくれるというプロセスが日本には必ずあるのです。欧米の人はなぜ急かされているのだろう、日本のしきたりや順序の中ではもっと穏やかで落ち着いた生活をおくれるのではないかと感じました。日本のルールには人へのリスペクトや思いやりを感じられるので、そこが好きですね」

——ネクタイをコレクションしていると聞きましたが、今日着用しているネクタイはどこで購入したものですか?

「昨日、ドン・キホーテで見つけたものです。ファッションブランドのものでなくて、すみません(笑)。日本の女子高生の制服用のネクタイではないかと思うのですが、私にとってネクタイは細くて短いサイズ感が大事なので、ぴったりだったのです。ネクタイって男性向けが多いので、なかなか自分に合うものが見つからなくて、いつも探しています。40本ほどコレクションしていますが、そんな私のことを知っている友人たちがプレゼントしてくれたものがほとんどですね」

——最後に、今後の活動について教えてください。

「9月にロンドンで次の展覧会を予定しています。また、カピターナ(カピタンの女性名詞)という、ファッションやホームウェアのブランドを立ち上げることに精力を注いでいます。今回の会場で販売しているグッズも、実は私がすべてディレクションしたものです。自分が着て満足できるものをテーマに、強いメッセージ性を持たせながらも、シンプルなデザインにこだわりました。私自身の作品も含めて、アートは価格が高く、お金持ちでないとなかなか購入できません。若い人たちはオリジナルを買うことは難しいけれど、作品をTシャツにすれば購入することができる。ものづくりが大好きなので、そういう手に取りやすい価格で実用的なアイテムを展開し、アートを楽しんでもらいたいと考えています」

誠実で率直な姿勢で、時にユーモラスに語ってくれたココ。インタビューの後は渋谷PARCO館内を巡り、お気に入りのネクタイを探したり、コラボレーションの経験もあるGUCCIやA.P.C.を訪れた。写真や絵画、言葉など、さまざまな方法で作品を生み出し、オリジナルファッションブランドも立ち上げるという彼女は、これからも私たちに新しいアートの世界を見せてくれるだろう。

展覧会
Coco Capitán「NAÏVY: in fifty (definitive) photographs」
会場
PARCO MUSEUM TOKYO(渋谷PARCO 4F)
会期
2022年4月15日(金)~ 5月9日(月)
時間
11:00〜20:00 ※⼊場は閉場時間の30分前まで。最終日は18時閉場。
入場料
800円 / 未就学児無料
主催
PARCO
企画制作
PARCO / 亜洲中西屋(ASHU)

Coco Capitán(ココ・カピタン)

1992年、スペイン・セビリア生まれ。ロンドンとマヨルカ島を行き来しながら活動している。2016年にロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートで写真分野の修士課程を優等で修了。彼女のアート活動はファインアートとコマーシャルアートの世界にまたがっており、その作品には、写真、絵画、インスタレーション、言葉などを越境した制作が含まれる。最近の個展に、「Naïvy」(マクシミリアン・ウィリアム・ギャラリー/ロンドン/2021年)、「Busy Living」(ヨーロッパ写真美術館/パリ/2020年)、「Is It Tomorrow Yet?」(大林美術館/ソウル/2019年)、グループ展に「Infinite Identities」(ハイス・マルセイユ写真美術館/アムステルダム/2020年)がある。作品は、ヨーロッパ写真美術館およびハイス・マルセイユ写真美術館のコレクションに収蔵されている。写真集に『Naïvy』『If You've Seen It All Close Your Eyes』『Middle Point Between My House and China』がある。コマーシャルワークのクライアントに、GUCCI、A.P.C.、COS、BENETTON、NIKE、Samsung、DIORなど。『The New York Times Magazine』『The British Journal of Photography』『Dazed』『M, Le magazine du Monde』『Document Journal』『VOGUE』などの雑誌に作品が掲載されている。また、ケンブリッジ大学、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート、オックスフォード大学、マンチェスター芸術学校、ロンドン・サウス・バンク大学、アールト大学などのゲストスピーカーとしても活動をしている。
cococapitan.co.uk

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