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Interview 友沢こたお|展覧会「Kotao Tomozawa Solo Exhibition "SPIRALE"」

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Interview 友沢こたお|展覧会「Kotao Tomozawa Solo Exhibition
Interview 友沢こたお|展覧会「Kotao Tomozawa Solo Exhibition

2020年代の美術シーンに、彗星のごとく一人の女性アーティストが現れた。現在、東京藝術大学大学院美術研究科に在学中の友沢こたおだ。人物や人形に色彩豊かなスライム状の物質がまとわりつくその強烈な具象画は、一度目にしたら脳裏に焼き付いて離れない。そんな友沢の大規模な展覧会「Kotao Tomozawa Solo Exhibition "SPIRALE"」が、PARCO MUSEUM TOKYOにて開催(2022年9月16日〜10月3日)。同展では、自身初となる作品集『KOTAO』も先行販売される。友沢こたおが、絵を描くことにかける思いとは?

Photo
Kyohei Hattori
Text
Keisuke Kagiwada
Edit
RIDE MEDIA&DESIGN inc.

——この1年、立て続けに個展を開催されていますよね。絵を描くという行為へと駆り立てるモチベーションは何なのでしょうか?

描くのが楽しいんですよね。ただ、「これは描けるな」ってものを描くことは面白くない。「これは到底描けないんじゃないか」ってことを決めて、それに果敢にチャレンジするのが楽しいんです。だから、毎回同じような絵を描いているように見えるかもしれないけど、これまで使ったことのない色や光を取り入れてみるとか、なんだかんだいつも自分の中ではチャレンジをしていてるんです。よく心配されるんですよ、「大丈夫?寝てる?」って(笑)。たしかに、狂気じみた量を描いている自覚はあるんですが、楽しんでやっているので大丈夫です。

——友沢こたおさんと言えば、スライムを被った人物の油絵作品です。今回の展示でもこのシリーズが軸になっていますが、ご自身の作品にスライムを使おうと思ったきっかけは?

芸大に入って1年目のとき、絵を描くのが億劫になっちゃってたんですね。「この世なんて全部ウソだ! 私も嘘だ!」って。それですべての制作が止まってしまっていたんですけど、ちょうど同じ時期、友達が家に置いていったスライムを見つけて、気づいたら頭からかぶっていたんです。そしたら、息が止まる感じとか、鼻に入ってくる感じとか、網膜に触れる感じとか、すべてがすごく気持ちよくて。「自分は確かにここにいるんだ」ってことがわかって、なんだか安心できたんですよね。

——「何を描いてもヌルヌルしてしまうっていうコンプレックス」に悩まされていた時期があったんですか。

私が描くと、石膏像とか牛骨とか受験で描かされるようなモチーフが、すべて溶けかかったように見えてしまうんですよ(笑)。講評のときも、「ブロンズじゃないんだから」ってよく言われていました。デッサンの成績もいまいちで、「私、下手だ。向いてないんだ」って思っちゃうくらい。でも、スライムは誰よりもうまく描けた、というか描けてしまったし、それを通して、自分が生きている上で感じているものを絵にできた気もしました。しかも、何かを捻じ曲げて作ったわけではなく、素直にシンプルに描いただけで、すごく強い表現になったなと思えて。

——「生きる上で感じているもの」とは、具体的にどんなことでしょう?

生きていると、圧力や辛さを感じることって誰にでもあるじゃないですか。例えば、そういうことですよね。スライムはそれに対する救いみたいなイメージなんです。でも同時に、スライム自体が抑圧に見える人もいるみたいで。私の絵は、見る人によって感じ方がいろいろなんですよね。中には自分が予期していなかったものもあるんですけど。

——モチーフとなるスライムをかぶる人物は、友沢さん自身の場合と、赤ちゃんの人形の場合があります。それぞれどういう位置づけなんですか?

「自分」は、この作品のテーマの軸になっているものです。だから、実際にスライムを被った私自身がモチーフの作品は、シンプルに「今ここに生きている人間」を描ければと思っています。それに対して、人形は実験台のような感じですかね。全身でスライムを浴びたり、目玉から飛び出しているようにしたり、人間では難しいことをやるときに使っているので。ただ、いつも使用しているルキちゃんっていう人形は、私が赤ちゃんのときから持っているもので、分身のような感覚があるんですけど。自分とルキちゃん以外だと、ごく稀に友達をモデルにすることもたまにあります。スライムを被りたいっていう特殊な友達がたまに現れるので(笑)。これもルキちゃんに似ていますが、そのときの自分と友達との関係性も絵に出るから、日記みたいな感じもあります。

——友沢こたおさんの描くスライムを見ていると、ハイライトの入れ方に目が行きます。こだわりなどは、あるんでしょうか?

そうですね、ハイライトの入れ方は重要です。止めどなく変容していくスライムの感じとか、ものがキラッと光るときに覚える違和感とかを出すために、ハイライトはゴリッと大胆に入れています。ただ、これは美術の先生が見たら、怒られるような描き方ではあるんです(笑)。眩しい白とかは、あんまり使っちゃいけないって言われているので。でも、それをガン無視して、自分でも「ちょっとキモいかも?」って思うところに、「えい」って突っ込んでいってます。そうすると、不自然さが出て、見る人の目がちょっとチカチカするんですよ。だから、私の絵はよく写実的って言われるんですけど、決して写実的ではないですし、うまくもない。見る人が見たら、雑に思えるかもしれません。でも、あえてそれをやっているんです。

——友沢こたおさんの作品は、色彩も強烈です。ご自身の中で、色というものをどう捉えているのですか?

自分はチューブから出した色を、そのままでは使えないんですよ。ピンとくる瞬間が来るまで混ぜ込んで、愛した色を使う。イメージしていた色と変わることもあるんですけど、同じ色って二度と作れないと言われているので、毎回そのときどきに出合った色を愛して塗っている感じです。

——そうやって一期一会で出合った色から、作品が始まることもあるんですか?

ありますね。というか、大抵はそうかもしれません。それに、油絵具ってなかなか乾かないから、キャンパスに置いたすべての絵具が、他の絵具の影響を何かしら受けるんですね。アクリルは乾くので、ここはこの絵具、こっちはこの絵具っていうのを決められるんですけど。だから、背景を描き終えて、人物の肌を描き始めると、そこに背景の色も入り込んでくるし、そうやって作られた肌の色も、また別のところに入り込んでくる。全部が連動するんです。油絵って何が起こるか予測出来なくて、本当に答えが出ないメディアなんですよ。座標軸が平面じゃなくて、宇宙みたいな。そこが面白いんです。

——その絵具同士の関係は、互いに滲み合っていうという意味で、友沢こたおさんの作品における人間とスライムの関係に似ているかもしれませんね。

そうなんですよ! 描いてくうちにふと気づいたんですけど、連動しているんです。ただ、いつもいろいろ考えて描いているわけではなくて、描いているときは必死であんまり覚えてないんですけど。描き終わった後、「え、なんでこれを描けたんだろう」って思うこともよくあります(笑)。だから、もう一度描くとき怖いんですよ。「どうやって描いてたっけ?」って。こんなに描き続けていても、そうなります。

——今回の展示"SPIRALE"について、お訊かせください。

大きな会場での個展で、展示作品数も今までで1番多いです。今の自分はまだ未熟ですが、今できる表現で精一杯描きました。生の肉眼でしっかり見て欲しいです。そして今回初めての立体化作品も展示します。そちらも必見です。

——今回の展示には、過去作から最新作までが並びますが、自分なりに進化を感じる部分はありますか?

毎回すごい違うっていうのが本心なんです。だから、進化……あ、最近はすごく大きい絵を描くようになったんですね。昔は50号って呼ばれるサイズを、半年くらいかけて怨念を込めるみたいに「うおー」って描いていたんですよ。でも、今は130号っていう2メートルくらいあるやつをバンバン描けるようになりました。しかも、爽やかに生き生きと。昔は「はい、描きます」て感じで向き合っていましたが、今は息をするように描けるというか。いっぱい描いたから、体が覚えているんでしょうね。

——小さい絵と大きい絵では、描くときの向き合い方も変わってきそうですね。

そうですね、大きいと訳がわからなくなるんですよ。唇でさえ、私の顔より大きかったりするので。でも、それが心地いい。小さい絵だと、訳がわかっちゃうわけですよ。おかしいなと思うところが把握できるから、そこをひたすら修正するみたいなことも起こって、結果、「ヌルっとした気持ち悪い絵が、うまく描けたね」って感じになってしまう。だけど、大きい絵って、訳がわからないなりに、「やってやる!」っていうピュアな気持ちだけを頼りに突き進めるんですよ。だから、ただうまいだけの絵じゃなくて、パッションが感じられるし、爽やかな絵というか、なんで私がそれを描きたかったのかがわかる絵ができるんです。

——ちなみに、描いているときは音楽を聴いたりするんですか?

聴きますよ。最近だと、ドイツのNEU!とかフィッシュマンズとか坂本慎太郎さんをよく聴きます。だけど、歌詞に引きずり込まれてしまうし、本当は目を閉じてじっと聴きたいって思ってしまうので、映像を流していることの方が多いかもしれません。『火の鳥』とか『フルハウス』とか『テラスハウス』とか(笑)。あと、YouTubeでホラーゲームの実況を流すこともありますね。絵を描くときって、これ以上ないくらい孤独なんですよ。自分一人で恐ろしい戦いに挑んでいるので。ホラーゲームの実況で自分より怖がっている人いたら、安心できるというか。

——そういう映像が作品に影響を与えることはあるんですか? 例えば、今回の展示に『テラスハウス』っぽい作品があったりとか……。

えー、それあるのかな(笑)。頭を空っぽにするために流している部分もあるので、自分的には影響はない気がしますけど。でも、この絵を描いていた時はこの映像を流していたなって、覚えています。

——今回の展示期間中は、ご自身初の作品集『KOTAO』が先行販売されています。どういった内容になっているんですか?

去年の2月から現在までの主要作品が収められているんですが、変容していく自分がぎゅっと凝縮されています。その期間は、自分にとってありえないくらい濃かったので、見ると自分的にすごいエモいんですよね(笑)。あと、作品の写真をカメラマンのたださんに撮っていただいていたんですが、これがヤバイくらいかっこいい。いつも描く前に「こういう絵がいいな」っていう目標はあって、「完成したかな?」ってところで筆を置くんですけど、たださんの撮ってくれた写真を見て、「あ、私は本当にこんなかっこいい絵を描いたんだ」って思える。私の作品はたださんが撮って初めて完成するんじゃないかって思ってしまうくらい。なので、私の絵が一番美しい状態で見れる作品集になっていると思います。

——そんなに濃い時間を過ごしていたんですか?

個人的な話ですけど、この作品集に収録されている最初期の作品を描いている頃、家がなくなってしまうという事件が起こったんですよ。それから家賃¥9,250の(事故物件の)シェアハウスでの生活を経て、今日に至ります。この作品集には、そんな「富士急ハイランドですか?」ってくらい激動の時間が詰まっているんです。

展覧会
Kotao Tomozawa Solo Exhibition SPIRALE
会場
PARCO MUSEUM TOKYO(渋谷PARCO 4F)
会期
2022年9月16日(金)〜 10月3日(月)
時間
11:00〜20:00
※会期中無休、最終日のみ18時閉場。
※入場は閉場の30分前まで。
※営業日時は感染症拡大防止の観点から変更となる場合がございます。
入場料
500円(税込) ※小学生以下無料。
タイトル
KOTAO
仕様
A4判変型(287×200mm) 128ページ+片観音2ページ
予価
¥3,300 展覧会先行発売(一般発売10月中旬)
刊行
PARCO出版

友沢こたお

1999年、フランス・ボルドー生まれ。スライム状の物質と有機的なモチーフが絡み合う独特な人物画を描く。シンプルな構成ながら、物質の質感や透け感、柔らかさのリアルな表現が見る者に強い印象を与える。東京藝術大学美術学部絵画学科油画専攻で学び、2019年度久米賞受賞、2021年度上野芸友賞受賞と、早くから注目される。近年の個展に、「Monochrome」(FOAM CONTEMPORARY,東京、2022)「caché」(tagboat、東京、2021)、「Pomme d’amour」(mograg gallery、東京、2020)など。現在、東京藝術大学大学院美術研究科在学中。
Instagram(@tkotao @chan_kotao)

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