ファッション、カルチャー、アート……食という領域を超え、ボーダレスに注目を浴びる「虎へび珈琲」。“コーヒー&サイエンス”という唯一無二のコンセプトを掲げ、科学者である焙煎士・今井惇人氏が作り出すオルタナティブコーヒービーンズブランドだ。
今回、7月29日(土)に山口一郎氏(サカナクション/yamaichi)とのコラボ第二弾「yamaichi Blend」を発売することが決定。山口氏が自身で初めてコーヒーをブレンドし、パッケージには彼のキーカラーであるイエローを採用したスペシャルなコラボレーションに仕上がっている。
この背景には、ブランドをディレクションする田中了氏と共鳴し、お互いをリスペクトし合う確かな信頼がある。穏やかな空気のなかで、両者が掲げるクリエイティブへの不変的な想いを聞いた。また山口氏のオファーもあり、第一弾コラボに続いてフォトグラファーとしての顔も持つ田中氏とのフォトセッションも実現。言葉と言葉の間にある、言い表せない情緒的なものを表現したいと臨んだ。そんな撮り下ろしの写真と共に、インタビューをお楽しみいただきたい。
- Photo
- Satoru Tanaka
- Hair&Make
- Asami Nemoto
- Stylist
- Shinichi Mita
- Lighting
- Kou Hoshino
- Digitech
- Kogi
- Photo producer
- Toru Hosaka
- Text
- Hanako Fujita
- Edit
- RIDE inc.
直感で大切にしているのは、“良い違和感”
――山口さんが最初に「虎へび珈琲」を知ったとき、どんなことを思われましたか?
山口「“コーヒー&サイエンス”というキーワードに、ものすっごい違和感があるなって思ったんですよね。僕が面白いって思ったり好きだって反応するきっかけは、必ず良い違和感があるかどうかなんです。嫌な違和感ていうのはただただ嫌いなものになるけど、良い違和感は好きになるきっかけになります。ファッションだけでなく、食も、音楽を作るのも、すべてにおいてそれを大切にしているんです。
そういう意味で“コーヒー&サイエンス”は響きだけでもう良い違和感だったし、実際に元科学者であり焙煎士である方が作ったコーヒーを飲んでみたら、味はもちろん美味しい、そしてすべてにコンテキストがはっきりしていて、面白いことが起きそうと直感で思ったんですよ。自分が好きなもののなかにしっかりと入り込んできて。それで了さんを紹介していただきました」
――それを受けて田中さんは、いかがでしたか?
田中「単純に嬉しかったですね。うちらはまだまだ若輩者でハードコアなブランドなのに、一郎くんに自分の想いの丈を伝えたとき、すごく愛情を持って接してくれて、解像度高く理解してもらえたんです。感謝したいですね。そうして、一郎くんが愛飲するアイスコーヒーのレシピを再現したyamaichi Blendを使用して『YI au lait』として発売しました。ファンの方が、わっと押し寄せてくれて」
――2023年3月21日のオープン時には、2時間待ちの行列ができるほどの賑わいでした。改めてyamaichi Blendのテーマを教えてください。
山口「普段と同じ淹れ方でこのコーヒーを飲んだらどうなるのかを実験したかったんです。美味しいものを飲んで自分の時間を過ごしたいっていう想いで、それをサカナクションの音楽が好きな方にもシェアしたいと思って。僕はミュージシャンなので、ただの音楽が好きな兄ちゃんです。音楽以外のことはできないし、もちろんファッションもアートディレクションもできない。でも音楽を作るときにはコンセプトを考えるので、その考え方みたいなのをもってすれば、いろんなシーンでいろんなものと寄り添っていけると思っていて。自分のライフスタイルを『yamaichi』として表現しているんですけど、『yamaichi Blend』は、そのライフスタイルを虎へび珈琲にデザインしてもらうというか、そういう気持ちですね」
――第一弾は山口さんが愛飲するアイスコーヒーのレシピを虎へび珈琲が再現しましたが、第二弾となる今回は、山口さんがご自身でブレンドされたんですよね。
山口「初めてやらせていただきました。実験じゃないですけど、見て、触れて、ここで色々と自分でやってみて。この空間にはオープン前から何度かここに足を運んでいるのですが、すごく好きな空間なんですよね。了さんのこだわり、いろんな感覚がこの空気を醸し出してる。人通りもあるのに、店内に入ると座れる場所があったりして。ここだけ別空間というか、居心地がいい」
――不思議な感覚がありますよね。渋谷PARCOのなかでも異空間な感じ。
田中「ちょっと治外法権的な、ここだったら何してもいいのかなっていう感じがあるからね。夢は、ここにDJセットを作って一郎くんに入ってもらって、パリでやっているみたいなイベントをやったらかっこいいなと思って。それでいてお店には人を一切入れないっていう……なんのためにやってんだろうみたいな(笑)」
マジョリティの中のマイノリティで、表現し続けること
――山口さんが作られている音楽にも虎へび珈琲にも、“クリエイティブ”という共通点がありますが、その点でシンパシーはありますか?
山口「直感で会って『同じ種族だな』って感じている時点で、人間として面白いと思い合えていたらいいなと思いますね」
田中「僕はもともとサカナクションのCDを持ってたんだけど、一郎くんと会ってからより深くいろんな発見があって。いまは一郎くんが夜中にやってる、YouTubeのゲーム配信が楽しみだからね(笑)」
山口「面白いですよね。僕も5年前だったら自分がYouTubeで生配信をするとは絶対思わなかったんですよ。でも音楽を掘っていくうえでテクノロジーってすごく近くにあるもので、それによって音楽は進化していきました。だから今の時代の音楽や文化ってなんなんだろうなとか考えていくと、意外となんでもやっていくほうが理想にマッチしていくんじゃないかなって。
僕も昔はテレビなんか出たくないみたいな(笑)突っ張ったところもありましたけど、人に知られる目的がはっきりしてくると、丸くなるというか柔らかくなっていくなと思いました。タフになってきたのかな。了さんが、尖ったところから丸くなっていったのって…?」
田中「自分ではあんまり丸くなってるって感じはないんだけど、そう見えているのであれば多分、自分が思い描く成功をしてないからだと思うんですよ。上がりきっていないというか。一郎くんはちゃんと結果を出しているけど、僕はどっちかっていったら、飽き性なので、途中ですべて違う方向に、違う方向にってやってきて。世間から見たら成功しているように見えることもあるかもしれないけど、自分の中で納得のいく成功はまだないから。一郎くんのYouTubeとか観てると、すごい考えてるな、タフだなと感じるし、リスペクトします。サカナクションが始まったのはいつ?」
山口「2005年に結成しました。」
田中「メジャーデビューは?」
山口「デビューしたのは2007年です。セカンドアルバム『NIGHT FISHING』まで札幌で作って、上京したのは30歳くらいなんですよね。結構遅咲きで、東京出てきてまだ12年くらいです。東京人のふりしてる状態(笑)。東京だといつまでも夢追っかけられるというか、ある意味残酷な街だなあって。みんないつまでも同じグループ、同じコミュニティの中で生きていけるような感覚がありますよね」
田中「そういうのから抜けたいなっていうのは常にあって、それで俺は15歳で家出して、海外行ったりしたんだよね。ファッションブランドやってる時も、どちらかというと輪の外にいる感覚で。一郎くんの楽曲もそういう感じがするんだよね。なんか、どこにも属していないみたいな」
山口「マジョリティの中のマイノリティにいるっていうのが僕らのテーマなんです。常に一本の線があって、こっちがマジョリティでこっちがマイノリティだとしたら、それを跨いで重心移動しながら音楽を作ってるんです」
田中「やっぱり、何か人と変わったようなこと、ちょっと違うところから切り込んでいきたいっていうのはずっと思っていて。虎へび珈琲を始めたのも、いわゆるカフェやコーヒーショップを作るということはまったく考えていなくて、もうちょっとブランドとしてのコーヒーをきっかけに洋服や器、音楽、もっと言えばカルチャーが伝わるような場所にしたくて。だから今回、一郎くんとコラボしたことですごく道が広がっていく感じがして嬉しいですね」
お問合わせ先:03-3486-7611
山口「僕らとしても、音楽から音楽以外のものを知ってもらえるというのは幸運です。すべてが乖離せずに、文化がファッションや音楽とつながっていく。2000年後半からって、どんどんデザインしないことがデザインになっていったじゃないですか。ノーデザイン。僕はそれがつまんないなって感じてたから、せめて自分たちは、自分たちの音楽が好きだって言ってくれる人たちに音楽以外のものも届けていきたいなって。だから了さんの考えと似てると思います」
田中「変な話、一郎くんがやっている音楽はゼロ地点で、そのうえでどう組み立てていくかが重要なのかなって思っていて。俺に置き換えると、コーヒーが美味しいってことは当たり前で、そっからどう違うステップを踏んでいくかが重要だなと」
山口「僕は全部、音楽のものにしたいんですよ。音楽をきっかけに、アロマを好きになったとかファッションを好きになったとか、アートを好きになったとか--音楽から始まっていくと、全部音楽のものにできる気がするんですよね。僕らの強みって、自分が好きなものがあって、僕は曲を作っていて、僕の音楽が好きだっていう人たちに、虎へびのコーヒーが好きだっていうのを伝えられる。それこそ遠いところにいる、地域に住んでいる未成年の子どもたちにまで届けることができる。それってどのメディアよりも強いと思うんですよ。僕はそれができるっていうことが、ある種ミュージシャンとしての音楽の一つかな、と思っていて。届けることができるというか、だからこそ自分が好きだと思ったものや人、影響を受けたものをピュアに届けていきたいです」
田中「音楽はそこがすごいなって思う。僕は同じ考え方だけどその逆というか、ファッションから来ているので全部ファッションにしたいんだよね。音楽もライフスタイルも考え方も。流行は流れの行き先って書くけど、その流れの行き先を早く見つけていくのが、自分のクリエイティブの進む道なのかなと思っていて。そこに忠実で、誠実でいたいというか。そういう意味で、わがままな部分もあるかもしれないし、本当だったらこういう風にやればビジネス的に儲かるかもしれないっていう点でも、流れの行き先と違ったらそっちには進まないし。
深い意味でカッコつけたいし、そのためのマインドみたいなのは持っていたいなと。自分が作るものは音楽からの影響が強いので、一郎くんには永遠と嫉妬しているんだと思います(笑)」
山口「そんな想いが込められた虎へび珈琲が渋谷PARCOにあるっていうことも、なんか僕すごく素晴らしいなと思って。文化の発祥というか、いろんな文化が生まれていく渋谷PARCOのなかにあるって、エモいというか。そしてこれからまた新しいストーリーや繋がりが増えていって、なんか自分も了さん自身も、わからなくなるくらい大きくなってくんじゃないかなって気がしています」
田中「自分が熱狂したり感動する情緒的なものを軸に動き続けられたらいいなと思っています。感じて動くという作業、人の感情を揺さぶることを見失わないでいきたいですね。それが伝わって、人が喜んでくれることがやっぱり嬉しいというか。そういうことを続けられたらと思います」
- ショップ名
- 虎へび珈琲
- フロア
- 3F
- 公式サイト
- https://www.torahebi.jp/auth/
- 公式SNS
- Instagram(torahebi.jp)
山口一郎
「サカナクション」として、2007年にメジャーデビュー。文学的な表現の歌詞と、幅広い楽曲のアプローチは新作をリリースするたびに注目が集まり、第64回NHK紅白歌合戦に出場、第39回日本アカデミー賞にて最優秀音楽賞をロックバンド初受賞するなど、その活動は高く評価されている。2015年から各界のクリエイターとコラボレーションを行いながら音楽と様々なカルチャーが混ざり合うコンテンツを企画するプロジェクト「NF」をスタートさせ、2023年から作り手とコラボレーションし、製造背景にもフォーカスをあて発信するプロジェクト「yamaichi」を発足させるなど、多様な活動も行う。
Instagram(@ichiroyamaguchi)
田中了
2000年代にファッションデザイナーとして、東京コレクションを中心に活躍。 同時に数々の企業とも協業、クリエイティブディレクターとしてジャンルを問わずボーダレスな活動を行なっている。2019年海外から帰国後、写真家としての幅も広げ、作品や写真誌などを発表。また珈琲ブランドをプロデュースするなど、自身に流れるクリエイティブの道筋を追求している。
Instagram(@satoru.pf)