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Interview マヒトゥ・ザ・ピーポー×森山未來×富田健太郎|映画『i ai』

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Interview マヒトゥ・ザ・ピーポー×森山未來×富田健太郎|映画『i ai』
Interview マヒトゥ・ザ・ピーポー×森山未來×富田健太郎|映画『i ai』

GEZANの一員として日本の音楽シーンにセンセーションを巻き起こす一方で、文筆家としても『銀河で一番静かな革命』『ひかりぼっち』などの著作があるマヒトゥ・ザ・ピーポー。時代の寵児として縦横無尽の活躍を見せてきた彼にとって、映画『i ai』は初の監督作品となる。

舞台は明石と神戸。主人公となる新米バンドマンのコウ(富田健太郎)と、コウが憧れるヒー兄(森山未來)を中心にストーリーは展開されていく。共演はさとうほなみ、堀家一希、吹越満、永山瑛太、小泉今日子、K-BOMB、大宮イチなど個性的な面々。劇映画初挑戦となる写真家の佐内正史が撮影を務め、マヒトは監督のみならず、脚本と音楽も担当している。映画のセオリーに囚われない作品作りはどこかいびつではあるものの、デビュー作ならではの衝動が全編貫かれており、本作にかけるチームの熱量も伝わってくる。

明石の透明感あふれる風景と共に描かれるのは、凄まじいエネルギーが渦巻く生と、あっけなく訪れる死だ。その前で登場人物は途方に暮れ、やがて再生への道を歩み始める。命をめぐるそうした物語は、マヒトがGEZANの最新作『あのち』(2023年)で突き詰めたものとも共通している。世界中で紛争が巻き起こり、絶望が社会を覆うなか、私たちはどのように生きていくことができるのだろうか。本作はその答えを簡単に与えるものではない。共に考え、実行するためのきっかけとヒントだけを与えてくれるのだ。

映画『i ai』の予告編の最後、公開日の日付と並んで「エンドロールが終わった後も共に生きよう」という文字が映し出される。そのメッセージは観客ひとりひとりに向けられている。異形の青春映画『i ai』。2021年の夏を本作の撮影に捧げたマヒトゥ・ザ・ピーポー監督、森山未來、富田健太郎の3人に話を聞いた。

Photo
Masafumi Sanai
Styling
Mayumi Sugiyama(Mirai Moriyama)
Styling
Masakazu Amino(Kentaro Tomita)
Hair&Make
Motoko Suga(Mirai Moriyama)
Hair&Make
Yurino Hamano(Kentaro Tomita)
Text
Hajime Oishi
Edit
RIDE Inc.

——マヒトさんは音楽や文筆活動などさまざまな表現をしてきたわけですが、今回どのような経緯で映画を制作することになったのでしょうか。

マヒト:コロナ禍のタイミングで自分たちでやっていた「全感覚祭(※)」というフェスができなくなって、力を持て余していたんですね。当時はライブハウスでの密なコミュニケーションも奪われ歴史に飲み込まれていくのをリアルタイムで目撃しているような恐怖があり、そこで鳴るはずだった音はどこに消えていくのか考えていました。仮に元通りを世界が装ってもしれっと自分たちが大事にしていたものがまた奪われてしまいそうで。ファンタジーの中だったらモッシュやダイブといったコロナ禍ではタブーになっていた光景も再現できる。そうやって何かの気配を記録することについて自覚的な時期でもあったんですよ。そこで映画という方法が立ち上がってきたところはあります。

※全感覚祭とは、GEZANおよび彼らが主宰するレーベル・十三月が開催してきたフェス。“面白さの価値は自分で決めてほしい”というステートメントを掲げ、入場フリーの投げ銭制や、金額別のチケット制を採用。

——豊田利晃監督の『破壊の日』(2020年)に出演した影響もあったのでしょうか。

マヒト:ありますね。『破壊の日』に出たとき、映画の制作って祭りと似てるなと思ったんですよ。自分の頭の中で描いたものを完璧に再現しようとするタイプの監督もいると思うんですけど、そこにいる人たちの気配や見えなくなった人の息づかいをひとつの現象として萃点に集め記録していくのが映画だと思っていて。「全感覚祭」も自分たちが表に出てるけど、ステートメントに書いたものをどう噛み砕き、自分の血にどう溶かし、どんなパフォーマンスするか、出演者それぞれに託されている。そのうえで同じ空間をたくさんの人たちとシェアすることで成り立っているわけで、その点も映画と祭りは似ていると思いました。

——個人ではなく、集団のエネルギーが突き動かすものということ?

マヒト:そうですね。最近もまたそれを意識したことがあったんですよ。Campanellaっていう友達のラッパーに「マヒト、映画のほうはどうなの?」って聞かれたときに「いい映画ができたよ」ってポロッと言ったんです。そうしたらCampanellaから「マヒトが自分の作品を褒めるのって珍しいね」と言われて。確かに自分のアルバムができたあと「がんばって作ったよ」という言い方をすることはあっても、手放しで「いいものができたよ」と言ったことがなかったんです。

——なるほど。

マヒト:それは作品の優劣というよりは性質の違いだと思うんです。去年の11月に「Road Trip To 全感覚祭」というイベントを川崎のちどり公園でやったんですけど、その少し前に今回の映画音楽も一緒に作ったOLAibiが亡くなったことで、高まりを目的とした例年とは違う気持ちが入っていて。でも「全感覚祭はどうだったの?」って聞かれたら自分のアクトの内容とは関係なく「いやー、最高だったよ」と言えるんですよね。それは自分だけじゃなくて、「全感覚祭」という現象の話だからだと思う。映画にもそういう感覚があるんですよ。監督なんでもちろん権限を持ってるところはあるんですけど、もうとっくに自分の話だけではないんですよね。

——ここ数年のマヒトさんは大所帯のコーラス隊であるMillilon Wish Collectiveと活動を共にしたりと、コレクティブ的な表現に向かっていますよね。それはなぜなんでしょうか。

マヒト:バンドもそうだけど、映画のチームもひとつのトライブ(部族)みたいなものじゃないですか。別々の生き方をしてきた人がある一定の期間、共通の目標に向かって空気をシェアし方向性を合わせる。その人の人生を掛け合わせているというか、人生の時間を借りているわけで、スピリチュアルなことだとも思うんですよ。自分自身、他者とどう関わるのかということに対して興味があるんだと思う。

——興味があると同時に、他者との関わりから生まれるものを信じているという感覚もありそうです。

マヒト:そうですね。その背景には、大きな集団、それこそ国家のような巨大なシステムに対するある種の警鐘もあります。このあいだネット上で「God is sleeping」と泣き叫ぶ紛争地域の動画を見たけど、「祈りってなんだっけ」と思う機会も多くて。「宗教って何だろう」「争いを生み出すほどの神様って何なんだろう」と考えることも多いし、そのなかで他者と関わること、あるいは自分と考えが違う人と一緒にいることの意味って何だろうと考えざるを得ない。それが自分にとってテーマのひとつになっているんです。

——ところで、未來さんとは今回の撮影前から面識があったんでしょうか。

マヒト:いや、まったくなかったんですよ。個人的に知り合いの役者さんもいるけど、そういう関係性のもとで出演してもらうのではなく、フィルターのかかっていない状態でこの脚本が映画になる価値があるのか判断してほしかった。個人的なストーリーでもあるし、思い入れもあるから、自分じゃフラットに判断できないところもあって。永山瑛太くんも面識はなかったし、小泉(今日子)さんは『破壊の日』の挿入歌である“やり直し音頭”のレコーディングで会ってはいるけれど、それぐらいの関係。プロデュースのスタジオブルーとも面識がなくて、「よく行くカレー屋にスタッフの人が出入りしてるらしい」という情報しかないところからのスタートでした。

——その一方で、K-BOMBやコムアイさんなどマヒトさんの盟友ともいえる人たちも出ています。

マヒト:今回はスタッフに関しても初めて一緒にやる人たちと身内のバランスについて結構考えたかもしれない。映画の方法について知りつくしたスタッフを集め「映画作りってこういうものですよ」という意見が通ってしまうのもどうかなと。絶妙なケミストリーを考えたというか、今まで自分たちでやってきたことの延長上でやりたいと思っていました。

——ヒー兄という、今回の作品でももっとも重要な役割を未來さんにオファーしたのはなぜだったのでしょうか。

マヒト:この映画はプリミティブな話で、自分の憧れの人が亡くなり、喪失からまた再生に向かっていくという映画の中で何度も描かれてきたストーリーだと思うんですよ。そのなかで登場人物は光でも影でもない感情だったり、名前のついていない感情を抱えながら生きている。表現ってそういう曖昧なものに輪郭を与える役割も持っているので、平面的に物事を捉えている人では向き合えないものだと思ってるんです。未來さんは身体っていう一番替えの効かないものを真ん中に置きながら、さまざまな物事を立体的に表現してきたと思うんですね。それで未來さんしかいない、と。

——森山さんはオファーを受けてどう感じましたか。

森山:もともとスタジオブルーのプロデューサー陣とは別の仕事を一緒にしていたんだけど、その流れの中で「こんな話があるよ」とオファーをもらいました。失礼ながらそのときはGEZANやマヒトの存在も知らなくて、前情報のない状態で脚本を読ませてもらったんですよ。私小説みたいな感じで、脚本の体を成していなかったんですけど、マヒトの世界観がダイレクトに伝わってくるもので。「これがどう映画になるのかわからないけど、片足突っ込んでみるのはおもしろそうだな」と思いました。とはいえ、映画としてどう成立するのかわからないというフラジャイルさもあって。そのときにGEZANの『狂(KLUE)』というアルバムを聴いて、「あ、大丈夫かも」と感じました。

——それはどういう感覚だったのでしょうか。

森山:なんというか、シンプルに信頼できるなと思って。破壊衝動で突き抜けるようなエネルギーがあるんだけど、同時に、今を生きている人たちにどう届けることができるのか、真摯に考えている感じがしたんですよ。ぶっ飛んだ曲もあるんだけど、言葉をちゃんと届けようと意識して作られた音楽だと感じました。そういう落とし込みをしてきた人であれば信頼できるなと。そのあと、マヒトから手紙を受け取ったんです。

——それはどんな手紙だったんでしょうか。

森山:いろんな思いがないまぜになった、とても手作りな手紙で、それも嬉しかったんですよ。ただ、その手紙がなかったとしても僕はやってたと思うけど。

——富田さんは脚本を読んでどんなことを感じましたか?

富田:自分が演じるコウの視点から読んだんですけど、わからない部分も多くて。それでマヒトさんに会いたくなって、話を聞いたんです。僕が家族や友達、先輩に対して感じる漠然とした愛みたいなものを表現しようとしているんだろうけど、マヒトさんはどうやらそういうものを超越した何かを伝えようとしているし、コウという役柄にも背負ってほしいと思っている。でも、当時、結局わからなかったんですね、自分は。

——わからない状態のまま、現場に臨んでみようと?

富田:そうですね。撮影の最初のほうは、ただ一生懸命そのときできることをやろうと思っていました。

——ヒー兄のモデルになった実在の人物とはどんな人だったのでしょうか。

マヒト:本当に劇中のヒー兄みたいな人でしたよ。ここじゃ書けないことも多いけど(笑)。やっちゃん兄ちゃんというんですけど、いつもインスピレーションをもらってました。BOREDOMSとかいろんなバンドのことを教えてもらったし、ずっとやっちゃん兄ちゃんにGEZANのライブを観てほしかった。山本精一さんと対バンすることになって、やっとやっちゃん兄ちゃんに観てもらえる!と思って連絡しようとしたら、ちょうど亡くなったという連絡がきて。バンドにとっての一番最初の喪失でもありますよね。(GEZANのメンバーである)タカは一緒にバンドもやってたし。

——やっちゃん兄ちゃんはミュージシャンだったんですか。

マヒト:そう、ミュージシャンですね。やっちゃん兄ちゃんが世界をひっくり返すんじゃないかと思って見てたけど、後々考えてみれば、その存在はCD-Rにしか残っていない。その意味では世の中にデータに残るような形で何か爪痕を残した人ではないんですけど、自分の記憶にはくっきり刻まれているんですよ。「CDを何万枚セールスしました」「ライブで何千人動員しました」という数字は記録として刻まれるけれど、たったひとりの人生を変えたという事実もすごいことだと思うんですよ。そういうことがたくさんの数字よりも劣ってるなんて俺には全然思えなくて。

——そうですね。

マヒト:フガジというバンドをやっていたイアン・マッケイも「本当にラディカルで素晴らしい音楽は、常に少数の人々だけが目撃できる」というようなことを言ってましたけど、普段ライブを観に行っていると、そういう感覚になることってあるんですよね。生産性ばかりが重視される今の世相に対するカウンターみたいな気持ちもやっぱりあります。

——じゃあ、富田さんが演じているコウはマヒトさんでもあるのでしょうか。

マヒト:それ、よく聞かれるんですよ。ヒー兄がマヒトなのか、コウがマヒトなのか。富田はGEZANのライブを観に来てくれたんですけど、「マヒトさん、思いっきりヒー兄じゃん」と言われました。強いていえば誰が自分というわけでもなくて、全部のキャラクターは自分の血を通って出てきたものではあると思います。

——森山さんはヒー兄をどのように演じようと考えていたのでしょうか。

森山:まず、撮影する場所も重要だと思っていました。脚本の段階で明石と神戸が舞台になっていたんだけど、横浜か鎌倉あたりの海で神戸を想定して撮影するか、実際に神戸でやるか、そういう話が出ていて。僕は絶対に神戸じゃなきゃできないと思っていました。GEZANに影響を与えたとされるその場で撮るのが大事だと思ったし、脚本もそこから生まれている。そして、瀬戸内の海の話であり空の話でもあるので、太平洋の海と空ではあの独特の湿度や色の感じは絶対出ないし、違う作品になってしまうだろうと。最初からそういうことは言ってました。

マヒト:未來さんが出演する条件の中に「神戸の海で撮ること」というのがあったんですよ。

——確かに海の色がすごく独特で、この映画特有の静けさを作り出していますよね。マヒトさんは海にどんなイメージを重ね合わせていたのでしょうか。

マヒト:瀬戸内海の奥抜けのない海の溜まりを意識して撮ってましたね。それこそが代用の効かないものでもあって。海の写っていないシーンのひとつひとつにも海辺の風を浴びた役者や街がいるし、海が映画を撮らせたんです。岸辺から海を見るときって「この場所から抜け出したい」という願望がその人をそこに立たせてると思うんですけど、かつての自分も一言で言い切れない複雑な気持ちのまま神戸の海を眺めていました。混乱した気持ちを許容してくれる海がこの映画の立体感を象徴してくれたと思います。

——森山さんは神戸のご出身ですよね。神戸にせよ明石にせよ、馴染み深い場所での撮影だったと思うんですが。

森山:そうですね。ダンスの世界では関西のほうがきわきわの人がいっぱいいたんですよ。たぶん音楽の世界も同じだと思うんだけど、踊ることでギリギリ生きることを繋いでいるような人がたくさんいたし、今もいると思う。

マヒト:関西のあの土壌って何なんでしょうね。音楽の世界にもたくさんいましたし。

森山:大阪もそうだし、神戸という街もそういう人たちのたまり場でもあって。社会に適合することや効率性の中で生きること、そして表現すること。そういった、できることとできないことのバランスに違いがあるというだけの話で、言い方を変えると、できないことがある分、できることの尖りもある。ヒー兄を演じるにあたっては、僕が今まで出会ったそんな人たちのことを勝手に想像しながらやっていたところもありました。

——それはおもしろいですね。マヒトさんと森山さんはそれぞれ違う実在の人物をイメージしつつ、それがスクリーンのなかのヒー兄に結実しているという。

森山:そうですね。そういう人にかぎって笑顔が柔らかかったりするんですよ(笑)。やたらと「ありがとう」という感謝の言葉を伝えたり。

マヒト:ああ、わかります。縛りや責任に囚われていなくて、何かを背負っているわけでもないから、自分の感情や感覚がダイレクトに表情に表れる回路がシンプルで、直感を表すまでの速度が速いのかもしれない。

森山:そのときの何かにすごくナチュラルに反応できるんだろうね。

——マヒトさんはどのような演出をしていったんですか。作品を観ていると、どこまでがマヒトさんの演出で、どこまで森山さんが即興的に演じているのか、だんだんわからなくなってくるんですよね。

森山:マヒトとは撮影の合間にもいろんな話をずっとしてたんですけど、こうしてほしい、ああしてほしいという話はほとんどなかったと思います。もちろん「画角がこんな感じなので、こう動いてほしい」みたいな話は時にはありましたけど。

マヒト:演出っていうものが何なのかまだ理解していないので、他の監督の話も聞いてみたいんですよ。ノンフィクションとフィクションの違いもないと思っているから。厳密に言うと、ドキュメンタリーと言われるようなものでもそこには演出が入るし、フィクションと言われるものにもその人の生きてきた道筋によって変わってくる。イメージは伝えるけど、それをどういう解釈をして、どういう表情で演じるかは役者に最終的に預けるしかないですよね。

——撮影現場の雰囲気はどんな感じでした?

マヒト:試写に来てくれた役者の友人や知人、たとえば安藤政信さんとか松田龍平くんには「現場の雰囲気がよかったことが伝わってくる」と言われました。俺は自分の映画の現場が初めてなので他と比べられないんですけど、構成が決まった通常のドラマや映画に比べると、全員野球みたいな現場だったんだと思う。(森山のほうを向きながら)他の現場と比べてどうでした?

森山:マヒトの初監督作品だし、佐内さんにとっても初めての映画撮影だったわけだけど、意外とちゃんとしてましたよ(笑)。その場で「やっぱりこうする」とか「こうしたい」みたいな衝動的な動きはなくて、脚本をどう撮りたいか、マヒトと佐内さんのなかでイメージがまとまっていて、それに対して着実に歩いていくという撮影だったと思います。とはいえ、めちゃくちゃかっちり決められてるわけではなくて、現場のやり取りの中で調整していく場面もあったし、ある種のセッションみたい瞬間もあったけど。

——富田さんはいかがでしたか。

富田:僕もそれほど映画の現場を経験しているわけじゃないんですけど、とにかく明石と神戸の空気をずっと感じながらやっていましたね。その空気のなかでマヒトさんと佐内さんが喋っていて、ふたりの背中を見ながら撮影が進んでいったというか。でも、佐内さんには「お前を撮りたい欲求が湧かない」とも言われました(笑)。それって自分の中でこの脚本のわからなさに対する答えだったような気もしているんですよ。富田健太郎としてもコウとしても何かを探し続けていたんですけど、そのことが佐内さんにはバレていた気がする。

森山:そういえば、マヒトよりも佐内さんに対して若干ヒヤヒヤしていた感じがする(笑)。佐内さんのスタイルには、フレームからいかに外れていくかという美学があると思うので、それを動画に置き換えたとき、どう撮られるか全然見えなかったんですよ。だから最初は「これ、どういう絵になってるんだろう?」という意味でのヒヤヒヤ感がありました。

マヒト:撮影が始まる前、内々のスタッフには大林宣彦監督のイメージを伝えていたんですよ。大林監督のような映画を撮りたいというわけではなくて、大林作品のようにちょっと恥ずかしいぐらい自分のイメージが溢れ出してもいいんじゃないかと思っていて。

森山:GEZANと大林作品って、なんかわかるな。

マヒト:佐内さんと撮影前に打ち合わせをしたとき、佐内さんがYouTubeで大林監督の動画を流して「マヒトくんはこういう映画を撮れると思うんだよね」とぽろって言ったことがあったんですよ。大林監督のことなんて、何も話してないのに。だから、最初はヒヤヒヤしていたところもあったんだけど、見えないものを捉えている佐内さんの感覚に賭けたところもありました。ただ、佐内さん、最初は「俺は脚本を読まないで現場に行くから」と言ってましたからね(笑)。それはさすがにヒヤヒヤしました。

森山:でも、途中から読んできたよね?

マヒト:そうそう。「これは違う」と思ったみたいで(笑)。そのあたり、佐内さんも動物的な感覚の人でもあるんですよ。そのなかでも現場における自分の役割とかも意識していて。たとえば、現場の空気を和ませるときに、「バイ~ン」みたいな声を出してみるとか。そういうことってすごく動物的じゃないですか。佐内さんが純粋な余白を守ってくれた部分もいっぱいありますね。

——どちらかというと、マヒトさんが現場の空気を和ませていたのかと思ってたんですが、佐内さんがそういう役割をしてたんですね。

富田:そうですね。マヒトさんは撮影の合間の会話でいろんなことを伝えてくれたんですよ。伝えたい思いだったり、今の富田にはこういうことが足りてないとか、LINEで励ましてくれたり。

マヒト:そんなこと、あったかなあ(笑)。

富田:「大丈夫、お前ならできる」って、俺がすごく悩んだときにLINEをくれて。撮影の後半、そのLINEをずっと待ち受けにしていました(笑)。俺はすごく臆病だから、不安になるんですよ。そんなときに携帯の待ち受けを見ると、大丈夫だと思えたんです。

——前半のヒー兄はふらふらと危なっかしい存在なのに、中盤から躍動していくような感覚がありました。身体の動かし方について森山さんが意識していたことはありますか。

森山:それは佐内さんの切り取り方とか、マヒトの脚本に影響を受けている部分はあると思います。ヒー兄は中盤以降、生きることで起こりうるノイズみたいなものから脱出していくので、そのあたりも出てるのかも。後半はほとんど言葉を発してないしね。

マヒト:映画のなかで大事にしたかったのは、死をどう捉えるか、別れをどう捉えるかということで。死というものがひとつのゴールで、時にはそこに「負ける」という言葉があてがわれることがあるけれど、それで言えば全員負けるわけで、誰もが当事者としてそのテーマを背負わなきゃいけないと思うんですよ。言い方を変えると死によって魂は肉体から自由になるわけでもあって。未來さんとはそういう話をずっとしていたと思います。

——中盤以降、作品自体がどんどん軽やかになっていきますよね。特に印象的だったのがラストシーンです。富田さんはどんなことを考えながら演じていたのでしょうか。

富田:オーディションであそこのセリフを読んだんですよ。そのときは自分ができる最大限のことをやった感じでした。撮影中にマヒトさんといろんな話をしたことや撮影が進んでいくことでどんどん責任感が出てきて。「登場人物からの愛を受けとって最後に自分で語るんだ」という意識がどんどん芽生えていきました。でも、やっぱりどう伝えたらよかったのかわからなくて。撮影が終わってしばらく時間が経ってから、ようやく言葉の意味を理解できたところもあります。

——「自分の声で言葉にしなくちゃ」と何度も繰り返す場面がありますけど、あれはまさに富田さん自身が意識していたこととも繋がるわけですね。

富田:そうなんですよ。だから、どこまでがコウでどこまでが自分か、だんだん境目がわからなくなってきちゃって。

マヒト:昨日試写の帰りにひとりで歩いていて、これはコウが詩に出会う話なんだなと思ったんですよ。富田もまた「よくわからない」というところから詩に出会い、向き合っていく。俺もこの先作品を撮ることで映画について多少わかるようになるのかもしれないけれど、わからなかったころの自分に戻ることはできないんですよね。いま話を聞いていて、「よくわからない」と言ってる富田健太郎をキャスティングした理由がわかった気がしました。

——あと、劇中の音楽が作品の強度を高めているとも感じました。劇伴についてマヒトさんはどんなものをイメージしていたのでしょうか。

マヒト:監督であり音楽も担当している強みとして、すべてのシーンの意図をシンクロ率100%で理解しているので、その特性は活かせたように思います。音楽がシーンのムード作りに徹するのではなく、ストーリー以上にイメージが先行する瞬間があったり、音自体が導いてくれる心象風景こそが主役になったり。あとは今回の劇伴をきっかけにGEZAN(のサポートメンバー)としても活動するようになったOLAibiの音が、自分にとっての『i ai』に新しいイメージを追加してくれました。

——OLAibiさんは残念ながら昨年10月に亡くなってしまったわけですが、彼女が叩くパーカッションの音が入ってきた瞬間、胸がいっぱいになりました。

マヒト:「記録することの美しさを教えてくれてありがとう」という感じです。もうこの世界で会うことはできないっぽいですが、この映画で放たれた言葉がブーメランのように自分に戻ってきてふたたび立ち上がる力をくれました。

——完成した作品を観て森山さんはどのように感じましたか。

森山:結果、マヒトの一人称の作品ではあると思いました。ラストシーンはもちろん、ヒー兄や他のキャラクターにもマヒトの一人称が刻まれていて、一本の作品のなかで繋がっている。舞台の場合は舞台上に出演者がいて、それを観る観客がいて、両者のインタラクションによって虚構をシェアしていくわけですよね。でも、映画はスクリーンに映像が張りついていて、映像と観客の一対一の関係性で成立している。劇場という暗室のなかで「僕と映画」が会話をしているんですよ。それが映画の特性だと思っているし、だから僕は映画が好きなんですけど。そういう意味でこの作品は「俺はお前に話しかけているんだよ」ということを、映画という最適の媒体を使ってやったということだと思うんですよ。簡単にいえば、マヒトの作家性が全面に出てるし、力のある作品だと思いました。

——ちなみに、マヒトさんはこのあと映画監督としての活動は継続していくつもりなんでしょうか。

森山:やんなきゃ駄目です。3本は撮らないと(笑)。

マヒト:いやー、映画の魔法みたいなものに当てられてますよ。映画を作ることが仕事なのか何なのかはちょっとわからないけど、人の人生を何週間も借りて作るということも含め、こんな幸せなことってなくないですか? 自分が消えた後も残るし、自分が死んだあと、お墓に祈られるよりもこの映画に祈ってほしいですよ。こっちのほうが墓の中の俺よりも俺だと思うし。













上演作品
映画『i ai』
公開⽇
2024年3月8日(金)
営業時間
11:00〜21:00まで
会場
WHITE CINE QUINTO
Cast
富田健太郎 さとうほなみ 堀家一希 イワナミユウキ KIEN K-BOMB コムアイ 知久寿焼 大宮イチ 吹越 満 永山瑛太 小泉今日子 森山未來
Staff
監督・脚本・音楽:マヒトゥ・ザ・ピーポー
撮影:佐内正史 劇中画:新井英樹
主題歌:GEZAN with Million Wish Collective「Third Summer of Love」(十三月)
プロデューサー:平体雄二 宮田幸太郎 瀬島 翔
美術:佐々木尚 照明:高坂俊秀 録音:島津未来介
編集:栗谷川純 音響効果:柴崎憲治 VFXスーパーバイザー:オダイッセイ
衣装:宮本まさ江 衣装(森山未來):伊賀大介 ヘアメイク:濱野由梨乃
助監督:寺田明人 製作担当:谷村 龍 スケーター監修:上野伸平
宣伝:平井万里子 製作プロダクション:スタジオブルー
配給
パルコ
公式サイト
i-ai.jp
公式SNS
X(@iai_2024) Instagram(@i_ai_movie_2024

© STUDIO BLUE

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ご当選の方へDMにてご連絡致しますので、渋谷PARCO 公式Instagramのフォローをお願いいたします。

※アカウントが非公開設定の方、フォローが外れている方は抽選対象外となります。
※応募はお一人様一回限りと致します。
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※当選の権利はご当選者様本人のものとし、第三者への譲渡(有償・無償を問わない)・換金を禁止させていただきます。

<当選発表>
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※賞品の発送先は日本国内に限ります。お客様のご住所・転居先不明などにより、お送りできない場合がございます。
※期日内にダイレクトメッセージへの応答のない方・当選連絡後、住所等の情報のご提供のない場合は、当選が無効となります。
※当選された方から提供いただきます個人情報は、本キャンペーンの当選のご案内・賞品発送にのみ使用いたします。
※当選理由についてのお問合せは一切受け付けておりません。
※ソーシャルメディアの運用を妨害する行為、趣旨に反する行為、弊社が不適切を判断する行為は禁止致します。
※当キャンペーンはFacebook社Instagramとは一切関係ありません。
※本キャンペーンは、予告なく変更・中止する場合がございますので予めご了承ください。

マヒトゥ・ザ・ピーポー

2009年 バンドGEZANを大阪にて結成。作詞作曲を行い、ボーカルとして音楽活動開始。インディーズながらFUJI ROCK FESTIVALのRED MARQUEE 、WHITE STAGE、GREEN STAGEに出演。うたを軸にしたソロでの活動の他に、青葉市子とのNUUAMMとして複数のアルバムを制作。国内外のアーティストをリリースするレーベル十三月を運営、全感覚祭を主催。2019年に小説、銀河で一番静かな革命を幻冬舎より出版。GEZANのドキュメンタリー映画 Tribe Called DiscordがSPACE SHOWER FILMにて公開。豊田利晃監督の劇映画『破壊の日』に出演。エッセイ『ひかりぼっち』がイーストプレスより発売。ユリイカ2023年4月号にて特集号の発売。映画『i ai』では初監督、脚本、音楽を担当、PARCO配給にて全国上映。
Instagram(@mahitothepeople_gezan



Photo by Takeshi Miyamoto

森山未來

1984年8月20日生まれ。兵庫県出身。5歳から様々なジャンルのダンスを学び、15歳で本格的に舞台デビュー。2013年には文化庁文化交流使として、イスラエルに1年間滞在、Inbal Pinto&Avshalom Pollak Dance Companyを拠点にヨーロッパ諸国にて活動。「関係値から立ち上がる身体的表現」を求めて、領域横断的に国内外で活動を展開している。主な映画出演作に、『モテキ』(11年/大根仁監督)、『苦役列車』(12年/山下敦弘監督)、『怒り』(16年/ 李相日監督)、日本・カザフスタン合作映画『オルジャスの白い馬』(20年/竹葉リサ、エルラン・ヌルムハンベトフ監督)、『アンダードッグ』(20年/武正晴監督)、『犬王』(22年/ 湯浅政明監督)、『シン・仮面ライダー』(23年/庵野秀明監督)、『山女』(23年/福永壮志 監督)、『ほかげ』(23年/塚本晋也監督)など。公開待機作に、『大いなる不在』(近浦啓監督)など。ポスト舞踏派。
Instagram(@mirai_moriyama_official

富田健太郎

1995年8月2日生まれ。東京都出身。主な出演作に、『サバイバルファミリー』(17年/矢口史靖監督)、『モダンかアナーキー』(23年/杉本大地監督)、ドラマ『来世ではちゃんとします』(20年/テレビ東京)、ドラマ『前科者 -新米保護司・阿川佳代-』(21年/WOWOW)、ドラマ『初恋、ざらり』(23年/テレビ東京)、舞台『ボーイズ・イン・ザ・バンド ~真夜中のパー ティー~』(20年)、舞台『雷に7回撃たれても』(23年) などがある。本作オーディションで応募総数3,500人の中から主演に抜擢され、話題を集める。
Instagram(@kentaro_tomita_

森山未來 衣装
ジャケット ¥76,000、パンツ ¥32,000 / Sasquatchfabrix.
シューズ ¥40,700 / ASICS RUNWALK
お問合せ先 
Sasquatchfabrix.
ASICS RUNWALK(アシックスジャパン株式会社 お客様相談室)0120-068-806

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