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ECAL × JEAN PAUL GAULTIER × PARCO 『Under Your Smell』|ジェンダーの多様性と美の新たな定義への賛歌。没入型写真展・オープニングパーティレポート&インタビュー

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ECAL × JEAN PAUL GAULTIER × PARCO 『Under Your Smell』|ジェンダーの多様性と美の新たな定義への賛歌。没入型写真展・オープニングパーティレポート&インタビュー
ECAL × JEAN PAUL GAULTIER × PARCO 『Under Your Smell』|ジェンダーの多様性と美の新たな定義への賛歌。没入型写真展・オープニングパーティレポート&インタビュー
Photo
Sachiko Saito
Text
Natsuko Fukushima
Edit
RIDE Inc.





カリプソ・マヒュー Interview



ローザンヌ美術大学(ECAL)で写真の基礎を教え、『Under Your Smell』のコーディネーターも務めるカリプソ・マヒュー。今回のプロジェクトは世界的なブランド「JEAN PAUL GAULTIER」とのコラボレーション。学生たちとどのように本プロジェクトを成功に導いたのだろうか。「GALLERY X BY PARCO」でインタビューを行った。

――東京での展示をご覧になってどのように感じられましたか? 感想をお聞かせください。

『Under Your Smell』は非常に挑戦的でした。この企画は、フローランス・テティエ(ゴルチエのクリエイティブディレクター)と、『ノヴァンブル・マガジン』のニコラ・クーロン、ECAL写真学部長のミロ・ケラーがコンセプトを設定したところから始まりました。パリで最初に本展覧会を開催したときは、ジャンポール・ゴルチエ本社にあるスペースに合わせて構成を考えました。そこはとても広い空間だったので、写真を巨大な布にプリントして展示することにしました。ですから東京では「GALLERY X BY PARCO」の限られたスペースで、本展をどう表現したらいいかチームで悩みましたが、このサイズだからこそ作品で埋め尽くそうと思いました。たとえばプリントした布で壁紙のように壁を覆うという作品を追加して、このなかではどこを向いても新しい作品に出会うような空間を作り上げることができ、良かったと思います。

――パリ、バーゼル、エリゼ写真美術館での展示と比べて、東京での展覧会にほかとの違いはありますか? 渋谷PARCOはこの50年ほど日本においてカルチャー、ファッション、アートの発信地となってきました。こうした商業施設内の空間で本展を開催することの意義をどうお考えになりますか?

デパートにあるギャラリーはもちろん珍しいのですが、渋谷PARCOには様々なファッション・ブランドが集まりカルチャーの中心地として知られているので、この空間で本展を開催することは自然に感じられました。

――今回「香水」という、視覚ではとらえられない香りの領域を、学生たちは視覚的に表現しようと試みました。学生たちには、どのようなアドバイスがあったのでしょう。

確かに香水の香りは目に見えません。フローランス・テティエとニコラ・クーロンの指揮のもと、学生たちはまずゴルチエというブランドにフォーカスをして、ブランドのイメージや雰囲気をとらえようとしました。さらに香水の素材や色についても考え、五感を使ってそれらを体験するというのはどのような感じなのかをみんなで探求しました。また、ゴルチエは挑発的なコンセプトを打ち出すブランドですので、そうしたブランドのあり方にもインスピレーションを受けました。

――このコラボレーションを実現させるために、実際にどれくらいの期間をかけて、どのようなプロセスで作品を制作したのでしょうか。ゴルチエ側からの説明などもあるのでしょうか?

まず学生にはこのようなプロジェクトが始まることを説明したあと、各自でリサーチをして、ムードボードを作ってもらうことから始めました。ブランド側からはとくに説明などをしてもらうことはありませんでした。学生たちが香水について、自分はどう感じたのか、自分はどのようなイメージを作りたいのかを、ムードボードにまとめてプレゼンテーションし、先生と何度か相談をします。ムードボードは雰囲気を伝えるような抽象的な内容ではなくて、具体的に詳細の内容を記すものです。どんなモデルを起用するのか、メイク、スタイリングや使う色彩など、できるだけ細かくイメージに記します。その後、実際に香水のボトルが届いて、1週間の撮影期間があります。ワークショップ週間と呼んでいて、つねに撮影し続けるとても過酷な1週間です。プロジェクトの始まりから撮影が終わるまでは2ヶ月ほどですね。

――本展についての説明には「ジェンダーの多様性と美の新たな定義の讃歌」とあります。なぜこのようなテーマに至ったのでしょうか? ゴルチエの香水瓶自体は、典型的な理想化された男性身体と女性身体をモチーフにしたデザインで、やや保守的なジェンダー感も感じられます。ただ、学生たちの写真作品はかなりクィアな雰囲気ですね。学生たちはどのようなジェンダーと美への意識を持っていると思われますか?

私は今年30歳で、学生たちとは10歳ほどの年の差があるものの、普段はそんなにジェネレーションギャップを感じません。とはいえ、今回のプロジェクトを通して、やはり学生の世代とはジェンダーに関する感覚が違うと思いました。もし私がこのプロジェクトで作品を制作するとなったら、もう少し保守的なジェンダーの表現になっていたかもしれません。ですから、学生たちから提出された作品の雰囲気を見て、最初はとても驚いたんです。若い世代は自然に様々なステレオタイプを破っていきますし、その姿をとても素敵だと思っています。いまはジェンダーやセクシュアリティに関しても、バイセクシュアルやアセクシュアル、ポリアモリーなど様々なあり方が可視化されるようになり、恋愛においても仕事においてもみんなそれぞれ異なる考えを持っていて、自分の好きなように自由に選択する。素晴らしいことです。
また、ファッション業界ではこうした多様性を尊重すること、たとえばいろんなボディタイプがあることや、ジェンダーやセクシュアリティの有り様があるということは、かなり認識されています。それが、最近は徐々にほかの業界にも広がりつつあるように感じます。私は以前、ラグジュアリーの時計ブランドと仕事をよくしていたのですが、そのモデルはいつも白人男性で、とても大きな腕時計をつけて、凛々しいポーズをとっている写真というものが求められました。でも将来は、こうした領域でももっとクィアで自由な雰囲気の表現ができるかもしれないですね。お客様もそれを望んでいると思います。誰もずっと同じような広告を見たくないですから。広告においては、人々を驚かせることがいちばん大切だと思います。

――大学在学中に世界的なブランドとコラボレーションできるということは、学生にとってはとても恵まれた環境ですね。こういった企業とのコラボレーションは、ゴルチエに限らず定期的に大学でのカリキュラムに含まれているのでしょうか?

ゴルチエとのコラボレーションは毎年行っています。それとは別に、毎年1回のコラボレーション企画があります。コラボレーションをするブランドは様々です。私が学生だったときはBMWとの企画でした。ほかにはフランスのブランド、靴のブランドなど、様々です。

――学生にとっては卒業後の仕事にもつながる、教育的な価値のある取り組みですね。若いクリエイターを育成していくために、これからの教育機関に求められるものとはなんだと思われますか?

私たちの学校を卒業した後、社会で活躍できるように、教育を通して準備を整えたいと考えています。学生たちは社会に出たあと、いろいろな企業やブランドと一緒に仕事をすることになります。マーケティングチームと仕事をする場合、彼らの目的は商品を売ることなのですが、そうした期待に応えながらもクリエイティビティを発揮する必要があります。学生にはどんな状況でもクリエイティビティがもっとも大切だということ、どんな状況でもクリエイティビティが押し殺されることのないようにと伝えています。もうひとつは権利ですね。たとえばアーティストとして働き、きちんと対価が支払われるか、自分の制作したものへの著作権はどうなるのか。どうしたらアーティストとしての自分を社会のなかで守れるのかという具体的な実践を学校で教えます。これはいちばん大切なことです。

――卒業後にキャリアを築いていくうえで、とても重要なことですね。ありがとうございました。

Calypso Mahieu(ECAL)

スイスを拠点とするフランス人写真家。ECAL(ローザンヌ美術大学)のアーティスティック・デピュティ―を務め、写真学士課程で応用写真の基礎を教える。パリと南フランスで生まれ育ち、2012年にECALで学ぶためにスイスのローザンヌに移住。在学中、パオロ・ロヴェルシ、ユルゲン・テラー、ウォルター・ファイファーなどの指導を受ける。 教鞭をとる傍ら、雑誌やブランドのファッション・エディトリアルやキャンペーンをプロデュースし国際的に活躍。作品は、身体、ソーシャル ネットワーク、ポストヒューマンの関係を取り上げている。その写真は、80年代以降にインスパイアされた非常にカラフルな色調で、シュルレアリスムから借りてきたテクノポップな美学をもって、ユーモアを交え演出されている。カリプソ・マヒューは、コミッションや個人的なプロジェクトを通して、日常生活や彼女を取り巻く社会からインスパイアされた物語や逸話を、詩的でフィクション的かつ繊細な方法で語ることを好む。







ジョナス・プルヴァ Interview



在日スイス大使館で、コミュニケーション、パブリック・ディプロマシー、文化全般を扱うジョナス・プルヴァ。実は今回の展示が「GALLERY X BY PARCO」で開催された背景にはヨーロッパ有数の芸術大学であるECALと、近年日本国内でも再評価が高まるジャンポール・ゴルチエが織りなすグローバルなクリエイティブを、ぜひ渋谷PARCOでとのオファーがあり実現したのだ。その背景には、どのような想いがあったのだろう。日本のカルチャーを見つめるプルヴァに話を聞いた。

――本展示はいかがでしたか?

この企画を通して、ジェンダーの多様性とクィアカルチャーの可視化に貢献できたことを、個人的に嬉しく誇りに思います。また、日本の友人たちにも、ECALチーム全員の素晴らしい才能を楽しんでもらえたらと思います。

――大使館として、今回の取り組みに期待するポイントは?

スイスと日本の国交樹立160周年を迎える2024年は、協力関係をスタートさせるのに理想的な記念年です。新たな市場開拓を目指したスイスの時計職人と時計商人によって始まった両国の友好関係は、ビジネスとパイオニア精神に根ざしています。
今日、私たちは持続可能性、健康、多様性などの問題に取り組むことで、ともに未来をかたち作ろうとしています。
私たちのパブリック・ディプロマシー・プログラム(国際社会における調和を目指すパブリックな活動)である“vitality.swiss”は、現代の課題に対して、共に考え、潜在的な解決策を想像する機会を数多く提供しています。『Under Your Smell』展は、2024年のvitality.swissプログラムのハイライトといえるでしょう。

――渋谷PARCOをECALにご提案くださった理由は?

PARCOは、渋谷、東京、そして日本におけるレジェンド的な文化事業者です。1960年代以来、何百万人もの日本の若者のアイデンティティ形成に貢献してきました。ファッション、アート、カルチャーを通じて、常に社会の進歩の最前線に立ち続けてきた渋谷PARCOこそ、この『Under Your Smell』展を開催するのに、最適なパートナーだと考えました。在日スイス大使館がPARCOとコラボレーションするのは今回が初めてであり、このような有名かつ親和性の高い文化施設と関わる機会を得たことを大変誇りに思います。

――国際的な文化交流にあたりPARCOに期待したい役割はありますか?

PARCOは文化交流のための素晴らしいプラットフォームであり、創造性、多様性、文化革新、社会変革といったテーマでの対話を続けていきたいと考えています。日本とスイスは、社会が少し保守的に見えるという意味では似ている部分がありますが、例えば、デザイン、建築、写真といった分野で多くの革新と創造性が起こっています。そんな、未来に向けた革新と創造の場として更なる飛躍を期待します!

Jonas Pulver(在日スイス大使館)

在日スイス大使館 広報・文化部長。10年のジャーナリズムおよびメディア業界での経験を経て現職。前職では、スイスの日刊紙『Le Temps』の記者、コラムニスト、海外特派員として、日本、韓国、インド、アメリカ合衆国、メキシコ、欧州の各国でレポートをする傍ら、スイス国営ラジオ、ラジオ・フランス、クーリエなどにも寄稿。2017年より、在日スイス大使館のコミュニケーション、パブリック・ディプロマシー、文化全般を扱う現職に。東京大学にてグローバル・スタディーズ、総合文化研究(修士号)を取得。西スイス応用科学・芸術大学にてピアノ奏法(修士号)を、さらにローザンヌ・ジャーナリズム・メディアセンターにて職業資格を取得。



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