2022年から開催している、PARCOがさまざまなカルチャーの紹介を通して、思い込みや線引き、誰かの決めたルールをあいまいにしてゆくことにチャレンジするカルチャーフェスティヴァル『あいとあいまい』。2024年は「city_logue」をテーマに掲げ、11月8日(金)〜11月25日(月)に開催予定。
開催に先駆け、『あいとあいまい』に参加する竹中万季(編集者)、ヤスダ彩(写真家)の2名に“渋谷”で過ごした忘れられない出来事を日記に綴ってもらった。昼・晩の時間軸で、それぞれが出会った渋谷の街の景色とは。
「あいとあいまい」スピンオフ Vol.1「本と映画」|金井冬樹(イラストレーター・コミック作家)、熊谷充紘(twililight 店主)、ユリ・アボ(編集者)
- Visual
- Aiko Koike
- Edit
- RIDE Inc.
竹中万季(編集者)
1988年、東京都生まれ。編集者。同僚の野村由芽とShe isを立ち上げた後、me and youとして共に独立。『わたしとあなた 小さな光のための対話集』、『me and youの日記文通』、『わたしを覚えている街へ』(twililight)などを刊行。
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渋谷日記|昼
2024/10/24(木)
10月だというのに今日は朝から太陽の日差しが眩しくて、空を覆うなにかが一枚めくれたかのような光の強さに気候変動を憂いた。つい先週衣替えしてしまい、なにを着ていいかわからない。渋谷を歩く人々も、半袖の人もいればニットの人もいる。選挙カーの声を聞きながら、ラブホテル街を抜けて、仕事の打ち合わせのため道玄坂へ。昔働いていたオフィスのそばにある、俺流塩ラーメンの横を通る。深夜にビールを飲みながら朝までここで語らっていた頃、毎日のようにタクシーで国道246号線を通って帰っていた。煮詰まった思いをツイッターに書いて、すぐに消したりして。こんなことばかりやっていたのは、深夜のせいなのか、年齢のせいなのか、街のせいなのか。
打ち合わせが終わり、道玄坂を降り、公園通りへ向かう。いつかのわたしはこの道を歩きながら、どういう関係性を望んでいるのかわからない人とのよくわからない約束、駆け出したくなるようなうれしい気持ち、なぜこんなことになってしまったんだろうという絶望感で頭の中をいっぱいにしていた。もう最近まで忘れていたのに、やっぱり思い出す。自分もたしかに傷ついたし、同時に誰かのことを傷つけていたかもしれない。渋谷を歩くと、思い出すと恥ずかしくなること、きれいではない部分もしっかり目の前に突きつけられる。右手にあったはずの建物はすっかり取り壊されていた。犬型のロボットが道を歩いている。どんなに未来になっても、0と1だけでは動かない曖昧なものは絶対にあるはず、とぼんやり思う。
公園通りは一人で、母と一緒に、何度も歩いてきた。90年代から00年代、学生だったわたしにとって渋谷PARCOは憧れが詰まった場所で、ズッカの服を買って、地下にあったロゴスとパルコギャラリーを見て帰るのが何より楽しみだった。公園通りを、道玄坂を、降りたり登ったりする感じ、足で踏みしめながらこの街を感じてみる。ビルがいくら減ったり増えたりしても、この地形は残り続けるから。
ヤスダ彩(写真家)
1999年、愛知県生まれ。写真家。広告や雑誌、映画ポスター・スチールなどで活動。映画『サマーフィルムにのって』などのスチールを担当。
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渋谷日記|晩
2022/12/11(日)
大学の友人kと近所でピクニックをしたあと、qと会うため、夜の渋谷の街へ出かけた。 qとは時々こうして互いの予定を終えたあとに、各々の自宅の中間地点である渋谷で落ち合って、特に何をするでもなく夕飯を共にし、食後の茶を飲み、最終的には終電近くまで地下で立ち話をしてまた各々の家に帰っていくような仲だった。この日も私たちは渋谷で待ち合わせて喫茶トップに入り、ツナサンドに添えられたこのレモンは今飲んでいるレモネードにのった輪切りレモンの丁度切れ端なんじゃないか、みたいなどうでも良い話や、その週にあった出来事をダイジェストで聞く。
退店のタイミングになったので、会計を済ませて道玄坂のロイヤルホストに移動した。私が昔バイトしていた店舗では窓際のボックス席からお客様を通すように指導された記憶があって、この店舗でもそうなのか、大抵は窓際のボックス席へ案内される。ロイヤルホストのえらい人が「フム、やっぱり窓際のボックス席が一番いいんだよなあ!」と思って、なるべく多くの人をその席へ通してあげられるようにしているんだろうか。だといいね。 私は林檎のパフェを、qはコスモドリアを注文。いつも注文を待つ間、ロッテリアの閉店作業を眺めたり居酒屋前でたむろする若者を数えたり、危険な横断をする歩行者を見て「危ないで〜」と思ったりする。
この日はqが作業をすると言ってノートに何やら書きつけており、私が暇をしないようにと『観察の練習』を貸してくれた。おかげでひとり窓際ボックス席観察会も捗って、いつも見過ごしていた街のフォルムやデザインを見つけ出してはなるほど、と新鮮な気持ちになった。暖房でややのぼせた体にパラダイスティーを流し込んでいるうちに閉店時間がやってきて、夢の中のような閉店放送とドビュッシーの『月の光』が流れ出したら時間切れ。吹き付けるつめたい風と人混みから逃れるように地下街へ逃げ込み、終電近くまで話し込んで、またこの日もそれぞれの街に帰って行った。
2024年現在、夜の渋谷に出かけることは殆ど無くなった。結局私たちは都内で部屋を借り、共に暮らしている。わざわざ電車に乗らなくとも同じ場所に帰って、リビングの大きなテーブルで食卓を囲み、風呂から出たら湯呑みで茶を飲める。qはいつも変なことを言って、相変わらず新たな視点を与えてくれる(この間は私が適当にマスカルポーネを使おうとしたら「もっとティアラちゃんみたいに使ってあげないとダメだよ!」と言われた。ティアラちゃんは表参道にいる、自力で歩かないプリプリの服を着たチワワのような概念を表しているらしい)。あまりにも便利な生活になったが、時々あの時間を恋しく思う。もう少し寒くなったら、ボックス席から冷たいガラス窓越しの渋谷の街を眺めに行こう。
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